【先進事例】「軽米町で取り組む脱炭素推進」山本賢一 氏/岩手県軽米町長

軽米町は岩手県の最北端に位置し、東は洋野町、南は久慈市と九戸村、西は二戸市、そして北は青森県八戸市などと隣接しております。基幹産業は農業で、特にブロイラー産業は農業算出額の約5割を占める重要な産業です。2007年度にバイオマスタウン構想、19年度にはバイオマス産業都市構想を公表し、地域資源のバイオマス利活用にも取り組んでいます。
軽米町は再生可能エネルギーによる発電事業を促進していますが、その理由は、緩やかな丘陵地帯が多く、雨量も年間1000ミリ程度と少なく、日照時間も国内上位にランクし、太陽光発電に適しているからです。またブロイラー産業によるバイオマス用の鶏糞も十分に供給できる状況にあります。
軽米町再生可能エネルギー推進協議会を14年に設立し、翌年に基本計画を作成しました。その際、協議会として工夫したことが5点あります。まずは再エネを地域発展のツールとして活用するという町の姿勢を示すこと。次に森林保全への配慮や災害防止の観点から町の林野面積の10%を開発行為面積の上限として設定。3点目は生物多様性の確保の観点から太陽光発電においても開発面積が10ヘクタール以上の場合は町独自の環境現況把握調査の実施を義務付けました。さらに売電収入の一部を基金化して農山村振興に必要な財源を確保。そして基本計画策定のための協議会には町民代表として委員を2人公募し、発電事業の導入による景観や生活環境の影響等について協議しました。
基本計画では、太陽光発電所5カ所とバイオマス発電所1カ所が全て稼働すると事業面積約666ヘクタール、発電規模は213メガワットです。これは一般家庭の年間電力消費量7万4千世帯分に相当し、当町の世帯数の約20倍となります。現在、太陽光発電所4カ所、バイオマス発電所1カ所が稼働しており、最後の1カ所は22年12月に完成予定です。
そして再生可能エネルギー事業を計画する際に地元貢献の一環として収益の一部を寄付していただく協定書を取り交わしており、収益の一部は軽米町自然のめぐみ基金として積立てております。また施設の工事は、地元の建築会社が関連工事を受注し、関連資材も地元企業から調達していただいており、工事関係者の宿泊や食事、生活用品の買い物といったソフト面でも町内の商店を利用していただいております。このように地域の活性化や経済効果、雇用創出の観点からも脱炭素社会の構築は自治体にとって新たな成長戦略です。100カ所の脱炭素先行地域などの事業を進める際には、ぜひ地方の目線で進めてほしいと思います。当町も世界の一員という自覚の下、公共施設のみならず、全世帯全事業所の電気を再生可能エネルギーにするという、雄大な構想に向かってまい進したいと考えております。
19年には、横浜市との再生可能エネルギーを通じた連携協定を結びました。21年4月から軽米町の電力が横浜市に供給されていますが、同時に町民や企業などの交流の活性化による地域活性化の創出も期待しています。