iJAMP自治体実務セミナー レポート

新たな物流が地域の課題を解決する〜物流の底力〜

【ご講演】「ヤマトグループが取り組む地方行政との連携「プロジェクトG」」

ヤマトホールディングス代表取締役社長 山内 雅喜 氏

◇行政と連携

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山内氏は講演で「地域の社会的課題の解決は、物流を外すと成り立たない。世界で最初に高齢化を迎える先進国として解決を急ぐ必要があると考えている」と提言。物流業界の視点を含め、行政と連携したまちづくりの取り組み「プロジェクトG」を紹介した。

「ヤマトグループは年間17億個の宅配を扱っており、荷物を受け取ったり届けたりするため、日本全国で日々約1000万人と接している。このため毎日、約5万台の車が地球50周分に当たる距離を走行。地域の変化、お客さまの変化に非常に近い所にある。セールスドライバーは常に情報入力できる端末を持ち、ITでつなぐ基盤を持っている」と山内氏。取り組みはいずれもこうした経営資源を生かしているという。

日本全体の課題として、山内氏は少子高齢化の加速、1次産業の衰退、自然災害への対応、地域経済の低下などを指摘。プロジェクトGで目指すゴールとして、①安全・安心に暮らせる生活環境の実現②地域経済の活性化―の2点を挙げた。全国の自治体と連携した案件は1800以上に上り、生活支援、災害時支援、販促支援、観光支援など多岐にわたる。

◇多様な生活支援

生活支援の一例として挙げたのが、65歳以上が人口の半分以上を占める高知県大豊町で実施されている配達時の見守り支援だ。商店に注文した品物を自宅に届ける「お買物便」の配達時に、在宅中の高齢者などに異変があれば、ドライバーがその情報を自治体に伝える仕組み。「独り暮らしの人を中心に体調の変化や困り事を聞き、異常があったら自治体に連絡する。民生委員だけに任せるのではなく、地域と一体になってお年寄りを見守っていける」と狙いを明かした。

少子高齢化は地方だけではなく都市部でも進んでいる。ヤマトグループは都市型高齢者に対する地域サービスについて研究。東京都多摩市にある多摩ニュータウンの一部地域に、コミュニティー型のサービスステーション「ネコサポ」を設置し、さまざまな試みを行っている。

宅配会社がそれぞれ荷物を届けるのではなく、1日1回受け取り側の都合のいいときにまとめて届ける一括配送、地元スーパーと組んだ買い物代行、掃除や電球交換、部屋の模様替えなどを請け負う家事サポートなどを実施。さまざまな連携をビジネスに変え、雇用の場もつくっていきたいという。

ネコサポについて、山内氏は「コミュニティーの場なので、手芸やピザ焼き教室の開催、健康面からのお薬相談会など地域の人たちが参加できることをやっている。地域コミュニティーがどうできるかを見る一つのモデル。住民からはネコサポを通じて他の住民とコミュニケーションできるようになったとか、いろんなサポートをしてもらえるので助かるなどという声をもらっている」などと評価している。

◇沖縄からアジアへ

ヤマト運輸など12社が参加し、2015年4月から開始した「A!Premium(エープレミアム)」は、青森の生鮮品を沖縄の国際物流ハブを介してアジアに搬送する輸送サービスで、地域経済を活性化した好事例となった。

「Aは青森のA。青森県には海産品、農産品でおいしい物がある。特にホタテは非常に大ぶりで、鮮度もいいので人気が高い。沖縄の国際物流ハブを介し航空便と連携することで、青森で朝捕れたホタテをその日のうちに沖縄の空港へ運び、ここから香港、上海、シンガポールなどアジア各国へ届けられるようになった」と山内氏。日本の最も西に位置する沖縄から4、5時間圏内のアジアには、20億人の市場が広がる。「国内価格よりも数倍高く売れ、運賃をかけても非常に大きな価値を持つ。通関の問題はあるが、障壁も徐々に下がっていくだろう。うまく活用してもらえば、各地の1次産品がより販路を広げ、価値を高めていくことも実現できると思っている」と意気込んだ。

◇未来型物流の試み

社会の変化に伴い地域と取り組む未来型物流の具体的な試みについて山内氏は、①自動運転などを活用したサービス「ロボネコヤマト」②「藤沢SST」での配送センター「ネクストデリバリースクエア」開設③会話AIなど情報通信技術(ICT)を活用した新たなサービスの提供―の三つを挙げた。

ロボネコヤマトはドライバー不足の中、無人運転をにらんだ取り組みで、自動運転とロボットを組み合わせ、24時間オンデマンド型で荷物を届けられるサービス。特区という形を取りながらさまざまなトライアルを試行していく方針だ。

藤沢SSTでは各家庭に配置したスマートテレビで客の意向を反映、ICTでは荷物を受け取りたい時間帯をあらかじめ登録してもらう「Myカレンダーサービス」などを展開している。

「先進技術を利用してコミュニケーション能力を高め、要望に応じた受け取り方法を可能にすることで、不在配達の問題などを解決したい。自分に都合のいい形を指示してもらい、私どももそこに合わせる。未来型では、お客さまの生活に合わせた形での受け取りを進めていきたい」と山内氏は話した。

◇見えてきた課題

山内氏はプロジェクトを通じ、見えてきた課題について説明。各地域での取り組みを進めていく上で、①取り組みが地域の課題・ニーズに合っている②取り組む人物、会社が連携しウインウインの関係になる③それぞれの得意分野を生かす④継続性の確保⑤行政の後押し―をポイントに挙げた。

このうち4点目の継続性の確保が、プロジェクト成功のために最も重要と強調。「地域の生活を便利に、豊かにしていくことを、経済的に成り立たせるのはなかなか難しい。お互いが少しずつ負担をして連携する形を取る仕組みづくりが重要だ。参加者の誰かが身銭を切ったり、投資に見合うメリットがなかったりすると継続しない。補助金や基金でスタートするだけでなく、予算化してしっかり継続しないといけない。行政の予算化、受益部分をシェアして継続できる仕組みをつくる。こうしないと結果的に2、3年間はできるが、その後は消えてしまう。2020年の東京五輪・パラリンピックまでに、世界に誇れるモデルをしっかり見つけられたらいい」

さらに、5点目の行政の後押しについて、山内氏は「国としての後押し、地域行政としての後押しの2種類ある」と説明。国に対しては「規制については例えば特区のような形で一回認めていただき、その中でトライアル確認をして、良ければ、今度は規制そのものを変えていく」などと、規制緩和の促進、特区の活用によるモデルづくりを訴えた。また地方行政に対してはプロジェクトを推進するに当たり、物流を担当する窓口を明確にしてほしいと要請した。

【事例紹介①】「多摩ニュータウンの今後のまちづくりについて」 >>

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