4月の熊本地震で大きな被害を受けた熊本市の市長、大西一史氏は特別講演で「東日本大震災の2カ月後に宮城県に行き、沿岸部を中心に回った。実際に被災してみると、いろいろな事がうまくいかない、こんなにもできないということを痛感した」と、率直な心情を語った。
同市のシンボルである熊本城も飯田丸五階櫓(やぐら)の石垣が崩壊するなど、被害は大きかった。復旧には城全体で634億円、石垣だけで425億円の費用がかかる。石垣に足場を組み、石1個ずつに番号を振って積み直す。櫓を解体し、石垣を再建してから組み直す。気が遠くなるような作業だが、大西氏は「『平成の築城』として取り組む」と復旧への意気込みを示した。
地震によって中止されていた熊本城のライトアップが再開されたのは6月1日。批判を受けることも予想したが、「希望の明かり」として再開を急いだという。
「市民は、仕事から帰る時も飲みに行く時もライトアップされた城の景色を見ていた。暗い状態で顔を下に向けて歩いていた市民が顔を見上げ、街中で涙を流す人もいた。ここから頑張って復興していくぞ、という機運になった」
大西氏は「日常が返ってくるという感じを市民に持ってもらい、元気になってもらうことが大事だ」と語った。8月上旬に実施した「火の国まつり」には関連イベントを含め3日間で48万人と、例年以上に人が集まったという。
「災害の後は、規模を小さくしてもお祭りを絶対にやるべきだ。人が集まることが、心の復興につながっていく」
地震で家屋が倒壊し、避難所生活が続いていた熊本県益城町の人々も参加して踊った。大西氏の下には「本当に良かった。つらい気持ちから解放された」という手紙が届いたという。
熊本市のインバウンドは台湾や中国、韓国などが中心で、13年から昨年まで順調に伸びていた。熊本城の入場者数も177万人に増加したところに地震に遭った。観光業界は大打撃を被ったが、明るい兆しも見え始めた。団体旅行客は全く戻っていないが、個人旅行は少し戻りつつある。熊本と台湾の高雄、ソウル、香港を結ぶ国際線のうち、高雄―熊本便は8月から運行が再開された。
熊本市には城以外にも海外の観光客に人気があるスポットが存在する。雲巌(うんがん)禅寺の裏山にある霊巌堂だ。伝説の剣豪、宮本武蔵が有名な「五輪書」をここで著したといわれる。大西氏は「欧米の人々はサムライや武士道に興味を持っている。こうした所をプロモーションしていきたい」と抱負を語った。