16年のインバウンドは10月までで約2011万人となり、15年の同時期より23・3%増加した。インバウンドは15年に爆発的に伸びた。16年も堅調に推移し、官公庁は2400万人前後に達すると見込む。インバウンドの増加が消費に与える効果は大きく、15年には約3兆5000億円と初めて3兆円を突破。16年はこれを上回るペースで伸びている。
最初に基調講演した蝦名氏は「爆買いが影を潜めたとはいえ、中国人の消費が約4割を占める。彼らの関心は地域の持つ観光資源、そこでの体験に移りつつある。長期滞在し、消費していくパターンに移っていくだろう」との見通しを示すとともに、ゴールデンルートへの偏りが大きいインバウンドの地方分散と大都市圏のおける宿泊施設不足の解消を課題に挙げた。
宿泊、飲食サービスなど観光関連産業の労働生産性は他産業に比べて低い。人口減少や郊外型の大規模店舗の進出なっどによって中心街がさびれてしまった地方都市は多い。温泉街の疲弊も深刻だ。蛯名氏は「週末に団体旅行でやって来るスタイルから、インターネットなどで調べた情報を基に本当に行きたい所、見たい所にピンポイントでやって来るスタイルに変化している。その変化に対応できていない」と指摘した。
観光先進国を目指して観光庁は、① 多様な観光資源を磨き上げる②国際競争力のある観光産業への変革③全ての旅行者が快適に過ごせる受け入れ環境の整備―という三つの視点で課題に取り組むよう促している。
観光資源の活用という点では、公的施設の開放が一つのポイントになる。蝦名氏は「赤坂迎賓館(東京)を一般公開したところ、大変な人気を呼んだ。交流会の開催なども予定している。文化財も、保護優先から活用へと大きくかじを切った。国立公園についても保護する区域と活用する区域を区分けし、海外からの客に体験し、泊まって、食事をしてもらえるようにしたい」と述べた。
「海外の観光地で成功している所では、その中核にDMOがある」。蝦名氏はこう強調し、中期的な観光戦略を担うスイスのツェルマットや自主財源を安定的に確保している米国のカリフォルニア州ナパの例を紹介。「現在、111の日本版DMOの候補法人が登録されている。20年までに世界水準のDMO100組織を形成するため、情報支援、人的支援、財政支援の『3本の矢』に取り組む」と力を込めた。