◇農業所得向上が課題
全国農業協同組合中央会常務理事の金井健氏は「世界の農業は画一化と多様化に分かれている。画一化は同じ物を大量に低コストで生産する。多様化の方は、少量で高くても素晴らしく良い物を作る農業だ」と世界の農業を概観した上で、「何百ヘクタールもある大きな農地を機械を使って耕作することは日本全体では難しい。日本の特徴を踏まえれば、多様性がある農業を展開していきたい」と述べた。
直面する課題について金井氏は「一番問題なのは、農業所得をどう上げるかだ。所得が上がれば、若い人が入ってくるし、中山間地にも人が住み生活を営むことができる」と指摘した。
農業所得を構成する要素には、販売価格、販売量、コストという三つの要素がある。金井氏は「最も困っているのは、販売価格が上がらないことだ」とし、コンビニ売られている1個100円の梅干し入りおにぎりを例に挙げた。このおにぎり1個に占めるコメの価格は19円、生産者の売り上げは11円にすぎない。ご飯1杯が25円で、農家の所得は8円。コメの1人当たり消費量は月に約5キロ、年間約60キロで、農家の所得は1900円弱だという。
◇キーワードは知的財産
所得向上に向けた方策はあるのか。金井氏は「この状況を何とか変えないと、なかなか所得は上がらない。売れるコメを売れるだけ作る。需給が均衡したら、消費者に『素晴らしい物だ』と言ってもらい、その分のお金をちょっと払ってもらう。それが付加価値の向上だ」とし、「これから考えなければいけないのは、『知的財産』という言葉をどう農業に導入するかだ」と強調した。
知的財産の考えを採り入れた農業の代表が、地域の農産物や加工食品に付加価値を付ける制度だ。金井氏が紹介したフランスは農業国でありながら、「コスト競争では勝てない。何とか付加価値を付けたい」と工夫した。それがワインやチーズ、バターなどの品質を保証する原産地統制呼称(アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ=AOC)だ。