iJAMP自治体実務セミナー レポート

観光立国実現に向けて〜訪日外国人を地方に呼び込め〜

「海外目線で見た日本の観光資源」

松山良一 日本政府観光局(JNTO)理事長

自国において見逃している観光資源を発掘し、いかに地方に外国人旅行客を導くか、全ての産業人が考える時期にきている。

まず、世界の観光動向と日本のインバウンドの変遷についてお話ししたい。世界の観光市場における地域別のシェアを見ると、アジアの伸びが非常に顕著だ。この伸びの要因として、アジアにおける中間所得層の拡大が挙げられる。国連世界観光機関(UNWTO)によると、各国における人口の推移、経済水準の向上、交通機関などインフラの発展、これらの要素を加味した上で推計すると、2030年にはアジアからの旅行者が世界シェアの約30%を占めると予測されている。世界における観光全体の市場規模はGDP(国内総生産)の9%を占め、11人に1人が観光業に従事すると言われており、観光は重要な産業であると言える。

日本では、03年に「ビジット・ジャパン・キャンペーン」として、政府を挙げて訪日外国人旅行者数拡大に向けた取り組みを開始した。15年は44年ぶりにアウトバウンドとインバウンドが逆転する見込みであり、歴史的な年になると考える。インバウンドが近年、拡大している理由は四つある。一つは、日本に対する関心が高まったこと。観光目的地としての日本に加え、アベノミクスによって「経済的に強い日本」としてのプレゼンスが高まった。二つ目に、ビザ要件の緩和や免税制度の拡充など、政府による外客誘致施策の実施。それに加えて、われわれが継続的に行ってきた訪日プロモーションが奏功した。三つ目に、アジアにおける中間所得層の拡大。最後に、観光に携わる業界が官民一体となり、オールジャパン体制で取り組んだこともインバウンドの拡大に大きく貢献した。

○インバウンドの現状

インバウンドの現状だが、外国人旅行者数を世界の国と比較すると(14年は)フランスが8300万人だったのに対し、わが国は1300万人で、世界では22番目。アジアでは7番目という状況だ。世界的な観光ブランド力の調査によると、日本はトップクラスの力を持つと評価されている。日本はいい国だ。だから、いつかは行きたい国として認識されている。その現状の認識を今行きたい国へと変えること。これが、われわれJNTOの大きなミッションである。

○「地方誘客」と「観光の質の向上」に向けて

観光を日本の成長を支える基幹産業にするために、重要な二つのポイントがある。一つは、地方への誘客。今、東京と大阪・京都を結ぶいわゆる「ゴールデンルート」には、多くの外国人旅行者が訪れ、宿泊施設は空きがない状況となっている。ゴールデンルートに訪れる旅行者に全国津々浦々、地方まで足を伸ばしてもらうための取り組みが必要である。もう一つは、観光の質の向上だ。観光地の魅力を磨き上げ、旅行者の満足度を高めることで、リピータとしてもう一回来ていただく。同時に、外国人旅行者を受け入れる地元も、そこでしっかり儲けることで、地域経済を活性化させることができる。

地方誘客を図る上で需要となるのは、外国人目線と絞り込みだ。日本人から一方的に「これは素晴らしい」と発信するのではなく、海外目線で見て「素晴らしい」と思う形で、魅力を発信することが必要だ。海外目線で観光資源を磨き上げた事例として、九州の五島列島の長崎県小値賀町が挙げられる。小値賀町は限界集落の状況を打破すべく、古民家を外国人目線で改装し、日本らしさと外国人旅行者への配慮を兼ね備えた宿泊施設を造り上げ、外国人を誘客できている。また、絞り込みの好例としては、長野県山ノ内町の「地獄谷野猿公苑」のスノー・モンキーが挙げられる。スノー・モンキーというインパクトのあるコンテンツを徹底して押し出すことで、まずは訪れるきっかけをつくり、結果的に地域全体の良さを発見してもらうことに成功している。

さらに、広域でまとまって魅力を発信することも忘れてはいけない。現在北陸では「北陸飛騨3つ星街道誘客推進協議会」が主体となって、ミシュランで三つ星を獲得した金沢、五箇山(富山県)、白川、高山(ともに岐阜県)の四つで広域観光を提供している。

○JNTOのミッションと取り組み

JNTOの取り組みとして、「ひがし北海道」(道東地域)、徳島県三好市で行ったコンサルティング事例を紹介する。また、訪日プロモーションの事例として、シンガポールをターゲットとした山形県。地方への誘客、香港の個人旅行者向けに鉄道とレンタカーの旅を提案した「レール・アンド・ドライブ」プロモーションなどがある。いずれも海外を拠点に活動してきたJNTOのノウハウを生かした取り組みだ。また、北陸新幹線開業を契機に欧米メディアを日本に招請し、記事を書いていただくなど、欧米からの地方誘客を図るプロモーションも実施している。

JNTOのミッションは「いつかは行きたい日本」を「今行きたい日本」に変えることだ。そのために、プロモーションを通じて日本ブランドを売り込んでいく。特に質の向上という観点では、富裕層、中間層、そして若者の取り込みが重要だ。プロモーションにおいては、在外公館や日本貿易振興機構(JETRO)、クールジャパン機構などとも連携し、オールジャパン体制で力を合わせて取り組んでいく。さらに、受入環境整備の促進に向けて、関係各所に公衆無線LAN「Wi—Fi」環境の改善や現金自動預払機(ATM)整備への働きかけを行っていく。

JNTOは観光により地方を、そして日本を、より豊かに、元気に、明るくすることを目指している。引き続き、温かいご支援をお願いしたい。(了)

松山 良一(まつやま・りょういち)氏

鹿児島県出身。1972年東京大学卒。同年三井物産入社、95年イタリア三井物産社長、99年三井物産広報室長、2004年米国三井物産副社長、06年三井物産理事などを経て、11年より現職。

【事例紹介】「観光と地方創生を結びつける持続的な政策とは〜消費拡大の可能性を日本人の宿泊旅行動向からよむ〜」 >>

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