昨年、年間の訪日外国人旅行者数は初めて1000万人を超えました。2003年、まだ500万人程度だった頃に、1000万人を目指した取組みを開始し、昨年1000万人を達成、今年は1300万人程度を見込んでおり、非常に好調に推移しています。とはいえ、世界比較で見てみると、世界では27位水準、アジアでは8位水準と、決して観光大国とは言えない状況です。政府としてまだまだやれることはあるのではないかと思っております。観光庁がインバウンドに力を入れる理由は、今後、少子高齢化によって人口減少が進む中で、交流人口を増やすことによって、それを補っていこうと考えているからです。計算上は、外国人旅行者10人分の消費額で定住人口1人分を補うことができることになっております。旅行消費額の合計22.5兆円の中で訪日旅行者の国内消費金額は5〜6%と、今は決して大きな数字ではありませんが、今後、非常に伸び率が大きい部分と考えております。
日本政府は、観光立国の実現に向けて、平成15年にビジットジャパン事業を開始し、平成20年に観光庁を発足させました。平成25年3月には、観光立国推進閣僚会議を設置し、観光立国の実現に向けたアクションプログラムを決定、今年6月にこれを改定しました。このプログラムは、2020年に2000万人を目指しており、内容は、6つの柱で構成されています。
1番目は、2020年の東京オリンピック、パラリンピックをきっかけとした観光振興です。開催国としての国際的注目を活かしたプロモーションを進めていく必要があると思います。オリンピックでは、オリエンテーションで文化プログラムがありますので、それを活用した日本文化の発信に取り組みます。ロンドン五輪では、ロンドン以外の地域の文化プログラムが6割を超え、それ以降、英国全域で観光振興がされたという成功例がありますので、東京五輪をいかに全国でプロモーションしていくかということは大きな課題です。また、今、文化庁と観光庁は協力協定を結んでおりまして、ともに日本の文化を世界に発信していく試みをしております。観光庁は、文化庁のように文化そのものを所管しているわけではありませんが、それが観光資源として世界の人にアピールするものである限りにおいては、積極的に文化庁と一緒にプロモーションをしていきたいと思っています。
2番目は、インバウンドの飛躍的拡大に向けた取り組みです。そのために、まず、インバウンド振興の担い手を増やしていく必要があります。よって、エンタテインメントやファッション、デザイン、アニメ、食、流通、農業など様々な業界の方に担い手になっていただきたく思います。また、マーケット、セグメントごとに分けた戦略的なプロモーションを進めていかなければなりません。現在、外部のマーケティング専門家と戦略本部をつくり、より科学的なマーケティングを実施しています。今後は、今の重点市場だけでなく、インドやロシアなどの将来有望な市場へのプロモーションも強化をしていきたいと思っております。さらに、JNTOの機能の強化も必要です。現在のビジットジャパンキャンペーンは、観光庁が主体で、JNTOがそれを監督する形ですが、今後は、JNTOが直接の実施主体となり、海外で迅速な弾力的な活動ができるように、今、制度を変えているところです。
3番目は、日本に来やすくするような措置をとっていくことです。訪日旅行を容易化するために、効果が見込まれる地域に対してビザ要件の緩和や、地方空港のCIQ体制の強化を進めていきます。
4番目は、世界に通用する魅力のある観光地づくりです。現在、海外からの観光客の約65%が、東京、大阪、京都あたりに訪れていますが、もっと全国的にお迎えすることが大切だと思います。そのために、ビジットジャパンキャンペーンにおける地方連携事業のように、海外の方の旅程に合わせた地域づくりを広域でおこなっていくことが必要です。今、私どもが進めようとしているのは、広域観光周遊ルートというものです。これは、複数の都道府県をまたがったテーマ性のある一連の観光地を、ネットワーク化し、平均的な滞在日数に見合った骨太な観光動線の形成するものです。当然、広域で取り組んでいくにしても、一つ一つの地域資源も大切ですので、自然や文化遺産等を担当している各省庁事業と連携し、地域特性を生かした観光資源を磨き上げていくことも考えております。
5番目は、便利に快適に過ごしていただくための受け入れ環境の整備です。今年の10月から食品、薬、化粧品なども消費税免税の対象になったため、地方のお菓子や伝統工芸品、お酒などの特産品も免税対象品になりました。それにより、この10月の免税の売上高の総額は前年比2倍以上と、制度改変による後押し効果が見てとれます。課題は、免税店の7割が三大都市圏にあることです。そこで、免税手続きを外部委託し、商店街全体の一括カウンターのようなものによって、小さなお店でも免税店になれるような仕組みを作れるように、税制改正を要望しております。また、無料Wi-Fiや多言語対応などの受け入れ環境整備も大切だと思っております。
6番目は、MICE(マイス)の誘致・開催促進と外国人ビジネス客の取り込みです。国際会議、学会などを積極的に誘致することで、発信力のある方々に日本に来てもらいたく考えております。
山口 裕視(やまぐち・ゆみ)氏
1983年東京大学卒。
同年運輸省(現・国土交通省)入省、2005年8月国土交通省総合政策局貨物流通施設課長、06年7月岡山県副知事、08年10月国土交通省大臣官房参事官(国際企画)、11年7月同省総合政策局国際政策課長、12年8月人事院人材局交流派遣専門員(官民交流派遣・三井物産(株))、14年7月より現職。