食の安全・安心を考える ~地域における安全保障とは~(iJAMP自治体実務セミナーレポート)

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基調対談

食料危機対応、地域が重要

農林水産事務次官

末松 広行 氏

全国農業協同組合中央会会長

中家 徹 氏
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末松氏 食料安保には三つの捉え方があると考えている。一つ目は大きな捉え方で、世界の人々が飢えないようにするにはどうしたらよいかということ。二つ目は中くらいの捉え方で、日本国民がいざというときに、きちんと食べられるようにするにはどうしたら良いのかということ。三つ目は小さな捉え方で、どのように地域でしっかり食べていくようにしていくかということだ。食料安保は国レベルで語られることが多いが、地域レベルで身近な食料安保を考えていくことも大切だ。

中家氏 食料安保の要は、安心・安全な食料を未来永劫、安定的に供給することだと考えている。今日、さまざまなリスクが高くなっている。自給率の低下や生産基盤の弱体化、世界的に頻発する災害と人口増加などにより、将来的に食料不足が予想される。これは農家だけでなく、国民全ての問題だ。自治体も含めてさまざまな形で実情を発信してもらいたい。

 ―就農者は減り続け、営農面積も減り、荒廃地が増えている。

中家氏 農業は50年くらいの長いスパンで考えなければならない。いったん農地を放棄すると、元に戻すのに数年はかかる。農村は防災など多面的な機能を持っていることに加え、郷土の伝統文化を守っている。農業だけでなく、農村をどうするかという視点が大切だ。

末松氏 農林水産業は日本に多くの恵みをもたらし、地域を支えてきた。農林水産業が衰退すると地域が衰退していくことになる。その解決策は、生産基盤の強化と地域全体でどのように農林水産業を支えていくか考えることにある。ただ、各自治体がしっかりしたビジョンを持っていないと農地はどんどん虫食い化してしまう。農水省だけではできないこともあり、積極的に他省庁とも連携して取り組んでいきたい。

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◇JAがインフラ担う

 ―地域によっては、買い物に困る高齢者も多い。JAは社会的なインフラ機能を果たしている。

中家氏 例えば、ある過疎化が進む中山間地では「買い物弱者」のために移動購買車を走らせ、住民に大変喜ばれている。JAの仕事は、インフラ機能の維持も使命としている。

末松氏 「食料・農業・農村基本計画」の原案を2020年1月にまとめる。これまで企画部会でさまざまな立場の人からヒアリングし、問題意識を共有してきた。ポイントは、これからの日本、特に農業の位置付けをしっかりすることだ。骨太の計画にしたい。

中家氏 最初の基本計画が作られてから20年。当時から認識していた課題は、現在もそれほど大きく変わっていない。農村振興は農水省だけでは限界がある。新たな計画について言えば、国と地方レベルでどう行動し、実践するかが重要だ。

◇画期的な省庁連携

 ―農産物の海外輸出についてはどうか。

末松氏 「1兆円の農産物輸出」を目標に掲げ、順調に推移してきたが、最後の壁に当たっている。それは各国の衛生水準や検査基準などの問題である。輸出向けの基準を迅速に満たすために、厚生労働省との議論も始めた。「縦割り行政」といわれる中で、これは小さい事柄だが、画期的なことだ。

中家氏 もちろん輸出は大切だ。しかし、食料の輸入が増える一方で、コメの消費量は年々減少している。もう一度、国内需要を見直し、需要を喚起する必要がある。

講演プログラム

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食料危機対応、地域が重要

農林水産事務次官

末松 広行 氏

JA全中会長

中家 徹 氏
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農は 食を育み 人を育て 文化育成する

全国農協青年組織協議会

飯野 芳彦 氏
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地場産野菜を給食に

JA東京むさし小平支店

本多 真道 氏