自治体事例②

呉市における骨粗しょう症重症化予防プロジェクトの取り組みについて

呉市 福祉保健課主任

要田 弥生 氏
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 呉市は、国民健康保険1人当たり医療費が高く、2017年度は45万9000円で国の1.28倍になっている。こうした背景もあって、市民の健康寿命の延伸を図り、国保の健全運営のため、増加する医療費の適正化を考えて取り組んでいる。

◆ レセプトをデータベース化

 どのように適正化するか。医療費の状況が分かるレセプトをデータベース化し、生活習慣病の予防を柱とした保険事業の推進に取り込んでいる。

 レセプトのデータベース化は、「健康管理増進システム」を通じて行っている。この中に特定健診のデータも取り込み、レセプト点検の効率化、保険事業の推進、ジェネリック使用の促進に取り組んでいる。

 特に糖尿病性腎症の重症化予防に重点的に取り組んでいる。重症化して人工透析に移行した患者は年平均医療費が400万円かかるため、生活習慣の改善など、腎症のステージに対応したきめ細かなプログラムを展開している。

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◆ リスク・重症度に応じて

 骨粗しょう症の重症化予防について話したい。国保加入者に限定していたデータベース事業を市民全体に広げるため、保険・医療・介護で分野ごとに展開している事業の課題を整理。総合的な健康づくり政策を推進するグループが18年度にできた。

 このグループは、「目指せ健康寿命日本一」を目標に事業展開している。国保のレセプトデータ、特定健診のデータに加えて、後期(後期高齢者医療制度)のレセプトデータ、介護給付データなどをすべて個人にひもづけして分析。リスクや重症度に応じて階層化して保健事業を展開している。

 後期高齢者医療費における介護度別の医療費の状況をみると、「要支援あり」と「要介護あり」の医療費第1位は「骨折」。さらに「要支援あり」の4位は「骨の密度及び構造の障害」で、ここに骨粗しょう症が入ってくる。これらのことから、骨折を防ぐことで市民のQOLの維持・向上と健康寿命の延伸に寄与できるのではないかと考えている。

◆ 受診中断は危険

 こうしたデータを分析して行政としてできることを考え、医師会、歯科医師会、薬剤師会と連携し、骨粗しょう症重症化予防プロジェクトを17年度から開始した。啓発は健康層(未治療者・骨粗しょう症予備軍)に行い、ミドルリスク層(治療中者)には治療継続をするめのプログラム提供、ハイリスク層(治療中断者)には受診勧奨することとした。

 ハイリスク層への受診勧奨事業は、骨折の既往がない1次骨折予防の対象者のうち、予防薬デノスマブの投与を中断した方でビスホスホネートの投与に切り替えていない者、または切り替え後に投与を中断した者にダイレクトメールを送って受診勧奨する。

 なぜか。デノスマブを止めると治療を始める前よりも骨折の可能性が高くなる。中断は危険なため受診勧奨している。

 2次骨折予防対象者は再骨折の予防。さまざまな骨折があるが、一番大きい、大腿(だいたい)骨近位部骨折の既往がある方を対象にダイレクトメールの送付と電話または訪問による受診勧奨を行う。

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◆ 処方継続と骨折

 1次骨折予防の受診勧奨後に、11カ月分のレセプトデータで状況を把握している。勧奨後に受診を再開した方は国保、後期高齢者合わせて24人(受診率35.3%)。受診勧奨後に骨折した割合は、受診を再開していない方が13.6%で、受診再開した方が4.2%だった。

 同様に2次骨折予防の対象者の場合は、受診を再開した方は12人(受診率34.3%)で、受診再開しないで骨折した方は4.3%、受診再開した人は一人も骨折していなかった。

 1次骨折、2次骨折とも適切な医療にかかって継続すると、骨折、再骨折を防ぐ。受診勧奨による受診再開率は3割強あり、継続していく。

 デノスマブを処方された人の処方継続と骨折有無の関係はどうなっているか。

 骨粗しょう症の重症化予防プロジェクトの結果として、デノスマブ処方者数、処方の継続と骨折の有無を見ると、15年度にデノスマブの処方があった方が606人。このうち、処方を中断した方の骨折割合は12.0%で、継続している方の骨折は6.5%だった。継続して薬を処方されている方のほうが骨折が少ない。

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◆ 顎の写真でリスク判明

 18年度には新規事業で口腔(こうくう)ケアを推進するための「歯ッピ-スマイル65」を始めた。介護保険証を交付する65歳に歯周病検診の無料クーポン券を送っている。歯周病検診だけでなく、パノラマX腺撮影診断ができる内容。パノラマレントゲンで顎の写真を撮ると骨粗しょう症のスクリーニングができる。これで早期発見につながるため取り組みを始めた。

 18年度の実績として、対象者2690人のうち受診者が239人。スクリーニングで骨粗しょう症のリスクありと判断されたのが5人。4人が医療機関を紹介され、1人は既に治療を受けている。早期発見、早期予防の事業を今後も展開していく。