◇居住せずとも担い手に
家族農業でやってきて、跡を継ぐ人が減っていく。若い人たちが出ていくので、やがて集落から1戸、2戸と抜けていく。徳島大総合科学部准教授の田口太郎氏は「人口減少により、住民は地域を維持する労力に負担感を感じ、これが衰退の圧力となる」と指摘し、「縮小均衡」を打開する方策について語った。
耕作し、管理するエリアを再検討する必要もある。ただ、最も重要なのは減少する農業の担い手をどう確保するかだ。居住を前提として人口を増やす移住、就農に力を入れている自治体は多い。しかし、「そこに住んでいないと担い手と言えないのか。そうではない。例えば、『通い農業』という形の農業もある。居住を前提にしなくてもよい」
居住してはいないが、その地域に関わりを持つ人々が現れてきた。「そこで『関係人口』という概念が出てくる」と田口氏は提唱した。結婚を機に村から都市部に出た男性は戻りたいと思っているが、妻の反対で実現できない。しかし、協力するときには協力してくれる。背景には、昔に比べ道路の整備が進み、車で比較的短時間で行けるという事情もある。また、結婚して上京した村出身の女性は、東京で徳島県の農産物を販売する事業をしている。これも一つの形だ。「グリーンツーリズム」で集落を訪れ、リピーターになる人もいる。そこから、「ファン」も広がる。
田口氏は「遠くに住んでいても、それなりの関わり方がある。地域の担い手を広い枠で得ることが大事だ」と述べるとともに、「移住者の数を重視するのではなく、その質だ」と指摘した。
せっかく移ってきてくれても、地域の伝統や文化、ルールを無視して地域住民の反発を招く。地域住民側も移住者との付き合い方が分からない。コミュニケーションがうまく取れないことは、お互いにとって不幸だ。それは、「関係人口」にも当てはまる。
かつての「移住ブーム」から「田舎ブーム」へと移りつつあるとされる。ライフスタイルの多様化が背景にあるようだ。農村の自然風景の美しさに引かれたり、オーガニックな農業をやってみたいと思ったりしたりする人たちも多い。「自己実現」を目指してやって来る人もいる。ただ、それが地域の自治や農業の再生に直結するわけではない。
田口氏は外部の人間との関わりを重視すると同時に、「地域にとって守るべきところは守り、変えるべきところは変える。移住者や外部関係者がその地域にとって貢献するのかどうか、戦力になるのかどうか。その地域を『主語』にして考え、選別してほしい」と語った。