◇LINEで情報共有

トークセッションの冒頭で発言した危機管理教育研究所代表の国崎信江氏は、昨年12月まで熊本県益城町の防災アドバイザーを務めた。同4月の熊本地震の本震から3日目に現地入りしたが、避難所に配置された町の職員の指揮系統は混乱していた。課単位で動いていないので、課長も部下がどこにいるか分からない状況だった。国崎氏は「避難所運営の『イロハ』を知らない人たちがとにかく入ったので、主体的に動くのではなく、住民がそれを求めているからやる、という状況だった」と振り返る。

「きちんと情報を共有し、統率の取れた行動をしてほしい」。国崎氏は町長に申し入れ、避難所の担当者を呼んでもらい、会議を開いた。内閣府が作成した避難所運営のガイドラインを渡したが、なかなかその通りにはできない。結局、国崎氏が一つ一つの避難所を回り、問題の解決方法などを伝えたという。
大切な情報共有の手段となったのが、LINEだ。国崎氏は「避難所対策チームで一つ、罹災(りさい)証明書発行チームで一つというふうにLINEでグループをつくった。課長のグループもそうだが、LINEによるグループ化によって情報共有が飛躍的に進んだ」と報告した。
◇クラウドで物資情報共有

廣瀬氏は改めて熊本地震の対応を検証。「IBMには避難所の状況や支援要請などの情報を集約するシステムを無償で提供してもらい、ソフトバンクにはこのシステムを搭載したiPad1000個を無償貸与してもらった。これにより円滑に物資の調達ができた」と民間の協力を評価した。この地震では市町村が把握し切れない小規模な避難所もあった。そういう所での情報収集に役立ったのが、フェイスブックやホームページへの書き込みだったという。書き込まれた情報を基にNPOなどが独自に募った集めた物資を自ら配送、廣瀬氏は「NPOが非常に活躍した」と述べた。

ただ、最初の頃には混乱もあった。自衛隊が物資を取りに行っても、物流業者から物資が届いていない。現地から「いつまでたっても物が届かない」と批判を受けたという。廣瀬氏は「パソコンのインターネットとか携帯電話を使って、今とこに物資が来ているかを調べることができる。そう思っていたが、うまくいかなかった」と語った。国はこの反省を踏まえ、クラウド上で関係機関の担当者や調達物資、拠点、事業者などの情報を国、都道府県、市町村が共有するシステムの整備に取り組んでいる。
◇インフラはキャリアの責務

伴野氏は「今まで数多くの災害を経験してきた。東日本大震災の時もそうだったが、ちょっと想定し得ない津波とかいったものにどう対応していくか。NTTグループ全体で防災、減災に取り組んでいる」とした上で、大手町データセンター(東京)や堂島データセンター(大阪)などのインターネット接続拠点への燃料供給や防水対策の重要性を指摘した。
伴野氏はさらに「通話ができることは大事だ。ただ、これだけSNSが重要になってきている。そこへの対応は徐々にできつつある」と述べるとともに、「キャリア(電気通信事業者)として通信インフラをきちんとしなければならない。KDDIやソフトバンクを含め、私たちにはその責務がある」と力説した。
◇判断するのは人

トークセッションでは、自治体間の連携も採り上げられた。平井氏は「東京都とは災害情報システムなどでつながっている。23区の横のつながりはどうかと言えば、17項目の相互応援協定を結んでいる。何かあったときには、被災していない区が応援し、相互に助け合おうというものだ。また平常時には防災担当課長会議などをしている」と報告した。ただ。23区はそれぞれ個別のシステムや防災行政を持っている。緊急時の対応はどうなのか。平井氏は「都の防災行政無線を使い、連絡することは可能だと思う。しかし、実際のところ、いざというときにどうやって横のつながりを持っていくかという点については、まだまだ課題がある」と率直に語った。

大規模地震に備えるシステムの整備は大切だ。しかし、それだけでは十分でない―。こう指摘した杉原氏は「災害時には市町村の職員は手いっぱいになっており、そもそも『システムに入力する暇なんかないよ』というのが本音のところだと思う。神奈川県は現地対策本部から連絡員や先遣隊を派遣し、市町村をバックアップしていきたいと考えている。それでも、情報共有には難しい部分があるだろう」と懸念を示した。

「通信技術がどんどん進歩しても、判断をするときには『人間系』がしっかりしなければいけない」。応急期には、どこが被災の中心地で、まずどこに人を投入すべきか、という速やかな判断が求められる。杉原氏は「システムのハード的な進歩だけではなく、人間系の進歩もしっかりする必要がある」と重ねて強調した。