iJAMP自治体実務セミナー レポート

新たな物流が地域の課題を解決する〜物流の底力〜

【パネルディスカッション】「新たな物流が地域の課題を解決する〜物流の底力〜」

パネリスト
国土交通省物流審議官 重田 雅史 氏
ヤマトホールディングス代表取締役社長 山内 雅喜 氏
多摩市副市長 永尾敏文氏
株式会社みちのりホールディングス代表取締役社長 松本 順 氏
コーディネーター
上智大学教授 ヤマトグループ総合研究所専務理事 荒木 勉 氏

◇手ぶら観光普及を

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荒木氏がモデレーターを務めたパネルディスカッションではまず、重田氏が農林水産業の輸出拡大などについて補足。「地域特産品というか地域の力は、やはり第1次産業だ。日本の農産品、水産品は外国人に非常に人気。現在インバウンド(訪日外国人)は2000万人超だが、彼らが感心するのは食の安全とおいしさ。満足度はすごく高い」と説明。輸出拡大のポイントとして、輸出のロットを大きくして物流費を抑えることなどを挙げた。

「日本人1人が消費する冷凍冷蔵食品は年間120キロ。英米は180〜200キロ。しかし韓国、台湾、香港などは60キロ。マレーシア、インドネシアは20〜30キロ。ミャンマー、カンボジアは1桁台で消費はもっと伸びる」と重田氏。「生産者の体制、輸出商社の機能をしっかりつくることが重要だ。国内消費を上げるのは難しいが、6億人のアジアマーケット、13億人の中国マーケットが、検疫、通関などで規制緩和されていけば驚くように売れる」と訴えた。

また、重田氏はインバウンドの増加に伴い、「手ぶら観光」の普及促進も地域の課題になると指摘。「中国経済が頭打ちというのは、北京、上海での話。政治、自然災害、感染症などでリスクはあるが、2020年の東京五輪・パラリンピックまでは中国からのお客さんは確実に増える。ASEAN諸国のお客さんもこれに追随するように増えていく」と語り、観光庁とともに、手ぶら観光の環境づくりを急ぐとした。

手ぶら観光は、外国人旅行者が鉄道などで大きな荷物を運ぶ不便さを解消できなければ実現しない。荷物の一時預かりや宿泊先への配送など、旅行者向けのサービス整備が必要だ。国交省は昨年3月、サービス拠点の共通ロゴマークを決定し、これまで135カウンターでの使用を認定。今年度末までに160カウンターに増やす方針を示している。

「外国人観光客にとって日本観光でつらいのは、池袋、新宿、渋谷など乗降客の多い駅を、大きな荷物を持って通過しなければいけないこと。これは絶望的な気持ちになる。欧米の鉄道は、必ず一つか二つの車両に旅行者用の荷物置き場があるが、日本ではほとんど整備されていない。駅や車両の更新には時間がかかる。鉄道インフラの投資を待つことなく、日本の旅の満足度を上げる方法が手ぶら観光だ」

◇魅力づくりが課題

日本を訪れる外国人の増加について、山内氏は「2020年の東京五輪の際、東京など関東地区のみに来てもらうだけではいけない。インバウンドをいかに地方へ巡回させるかが非常に大事なポイントだ」と説明。手ぶら観光についての物流業界の対応について「旅行者のスケジュールがデジタルデータ化され、宿泊先、行き先が管理でき、個々の客との間で確認が取れれば、宿泊先から宿泊先への荷物の配送ができる。旅行者は行動範囲が広がり、土産を買いやすくなる。荷物は、最終的には母国の空港に送り届けられるような形にしたい」と期待を込めた。手ぶら観光で消費も広がり、地域振興のメリットも望める。誘致のためのプロモーション、まちの魅力づくりを課題に挙げた。

松本氏は「鉄道は荷物にあまり優しくないが、バスは車体横のトランクが大きいのでたくさんの土産を詰め込める。ただ、そうは言っても限界があり、手ぶらは非常に大きな広がりを見せる予感がする」と発言。「蔵王や安比高原でスキーを楽しむオーストラリア人は、ものすごい大荷物で来日する。成田で荷物を預けて宅配便で宿泊先に届けられるなら、新幹線で仙台や盛岡に寄り道することも、世界遺産の日光東照宮に立ち寄ることもできる」と述べ、手ぶら観光に伴うインバウンド誘致の大きな可能性を期待した。

永尾氏は「観光立地している地方自治体は多くはないが、まちの便利なステーションみたいなものを、インバウンドにアピールするのも誘致に役立つのではないか」と提言した。

◇物流の三つの不安

重田氏は先の国会で成立した物流総合効率化法の概要について説明。労働力不足と小口輸送需要の高まりを背景に、物流全体を見渡した効率化の取り組みが必要ということで、輸送網の集約、共同輸配送、モーダルシフトなど環境負荷低減の取り組みについて国の支援が規定されたとした。

「日本のメーカー、大手小売りなどの大荷主は非常に大きいボリュームの物品を物流に出すが、三つのことに悩んでいる」として、①CO2排出量の規制②ドライバーの不足③トラック需要の急激な変動―を挙げた。

重田氏はパリ協定で決まった環境対策の国際的な枠組みに触れ、「CO2排出量を2030年度までに、2013年度比でマイナス26%にするのは、発生源対策だけでなくシステム対策をしっかりとつくり込んでいかないと、とても達成できない」と指摘。省エネで効率的な物流システムを採用しているかどうかが大きなポイントになるとした上で、船と鉄道で幹線輸送を行っている自動車メーカーの例を紹介した。

ドライバーの不足については「5年後10年後に、今の水準のセールスドライバーを同数そろえるのは難しい。人間以外にはできない中核業務はあるだろうが、いろいろな部分でシステム対応を進めていくしかない。IoTやAIなどのテクノロジーの活用を進める必要がある」と強調した。

トラック需要の急激な変動について、重田氏は「5%から8%への消費税増税が決まった際、その半年前からトラックを手配できなくなった。社会全体の駆け込み需要でトラックが押さえられ、メーカー、小売業者は、一番恐れる生産調整に入らなければいけなくなった。東日本大震災の時は物流が断ち切られ、生産調整を相当せざるを得なかった。いずれも過度にトラックに頼ったシステムが大きな原因だ」と語った。

メーカーが物流に対して抱く不安を踏まえ、重田氏は「自治体が企業誘致をする際、土地や固定資産税の安さ、水、電気の手配などを考慮しても、企業は動いてくれない。海外移転せずに日本に残って十分戦えるだけの物流のシステムを本当につくれるかどうか。これが企業進出における大きな判定材料となる」とした。

◇人手不足の対応策

山内氏は物流業界の人手不足について「本当に深刻な問題」と認識。対応策として、①作業の自動化②従業員対象者の拡大③ICTなどの利用―の三つを挙げた。

作業の機械化、自動化を推し進めるのは、荷物の仕分けなど直接客に会わず、しかも集約してやれる分野。羽田空港近くの物流ターミナルでは、仕分けにかかる人手を従来の60%で済むシステムを導入するなど、大規模拠点を中心に最新鋭の自動化を進めている。また人手を確保するため、従業員の雇用対象を外国人、高齢者まで広げ、主婦も家事の合間に働けるようそれぞれの働き方に合わせて採用する取り組みを実施している。さらに、一番効率よく配達できるルートを組むなど業務効率化を進めるICTの利用を加速していく方針という。

一方、モーダルシフトについて山内氏は「必要」との認識を持ちながらも、現状では進んでいないとした。「鉄道は私たちの作業時間とあまりかみ合わない。また船も含めて積み替え作業が発生し、それがスムーズにいかない。私たちはスピード輸送をメインとしているから、モーダルシフトは難しい点もある。新幹線に貨物専用車両が1、2両付くと常に使える形になるのだが…」と述べた。

◇物流をビルトイン

重田氏はまた、eコマースがまちにもたらす変化も取り上げた。日本のECマーケットの取引高は2010年7兆円、2015年14兆円で倍増しているが、小売り全体に占める比率は現在4%台。欧米の2桁台と比較しても、今後さらに伸びる可能性はある。宅配便の取り扱いは昨年37億個だったが、ECマーケット拡大による飛躍的な伸びも指摘される。

「今の高齢者はネット販売に疑問を感じている。しかし、ITリテラシーの高い団塊の世代が今後、膨大にECマーケットに入り買いまくる人が増えたとき、まちがどうなるかは考え直さなくてはならない」と重田氏。「宅配便で1日3回持って来てくれ、1日4回持って来てくれと、みんなが頼むんですよ。買い物代行もやってくれと。街中が配送車で埋め尽くされる状況は好ましくないから、必然的に藤沢SSTのように一括配送になる。400世帯入る高層マンションに、1人につき1日3回配達したら館内物流がまず破綻する。物流の機能が建物と地域の中にビルトインされていなければ、まちも建物も破綻する社会が必ず来る」と警告した。

その上で重田氏は「広い意味での都市計画で、最終的には自治体の問題になる。まちは買い物のあり方ですごく変わる。変わった後にしまったとならないように、建物の建築設計に物流の機能をインプットすることが必要だ」と話した。

荒木氏は最後に「自治体も業者も、地域の事情に合った物流システムをそれぞれ考えなければいけない。自治体ではその地域をよく知っている職員がその窓口になることが必要だ。自然災害なども含めて、中央だけでなくて地方の皆さんもぜひ、地域の課題を解決するため物流がどうあるべきかに取り組んでいただきたい」と訴えた。

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