iJAMP自治体実務セミナー レポート

観光立国と地方創生 〜日本版DMOが地域を変える〜

パネルディスカッション「観光立国と地方創生〜日本版DMOが地域を変える

コーディネーター

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中村 好明 氏

ジャパンインバウンドソリューションズ代表取締役社長

パネリスト

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久保 成人 氏

日本観光振興協会理事長

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山口 祥義 氏

佐賀県知事

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植田 佳宏 氏

大歩危・祖谷いってみる会会長・ホテル祖谷温泉社長

◇ワンストップで対応

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観光庁長官を務めた日本観光振興協会理事長の久保成人氏は「13年ごろにはインバウンドという言葉は普及していなかった。そこで外国人の皆さんによる国内旅行だ、日本のどこかに行き旅行するのがインバウンドだ、と説明した」と振り返り、「インバウンドの増加は日本の地域の活性化につながる。行政として一押ししてみると、民間も動き始め、自走し始めた。ビジネスとして捉えられるようになった」と語った。

「今、一番反応があるのは日本版DMOで、多くの候補法人が手を挙げた。大変な数の質問や相談が協会に寄せられている」

このため同協会ではDMOへの対応に力を入れている。今年4月にはワンストップで相談などに応じるDMO推進室を発足させ、支援ツールとしてクラウドも準備中、という。

◇地元の魅力に気付け

総務省で過疎対策を担当した山口祥義佐賀県知事は、「佐賀さいこう!」というプロジェクトを推し進めている。佐賀の魅力を県民自身が認識することが観光産業を含め全ての原点だ、という思いからだ。

「佐賀の魅力というものは、外からここに来た企業の支店長たちが一番知っている。『将来ここに住みたい』と言うほど、大好きになってくれる。ディープな佐賀を知ってくれた人がファンになってくれる。ここにヒントがある気がする」

「佐賀には何にもなかもんね」。度々こんな話を聞く山口氏は「長年、佐賀に住んでいる人たちが佐賀の持つ魅力を分かっていない。魅力の『原石』に気付いていない」と問題提起した。

例えば、香港からの客は「佐賀牛と呼子のイカだけあれば、十分満足してくれる」と言う。「県民が『佐賀最高』と思ってくれることが大事だ。愛着度、自慢度が上がることでDMOなどの素地ができる。地域の皆さんが地域の良さを分かっているかどうか。それが最大の味方であり、最大の困難も伴う」

山口氏は「物見遊山」ともいわれる従来型の観光と新しいDMOとの調和が大切だとした上で、「成功するか、失敗するかではなく、かんかんがくがくの議論をすることが大事だ。試行錯誤し、失敗しても前を向いてやっていくこと自体かけがえのない財産になる」と力を込めた。

◇外国人が再発見

外国人が日本人が忘れてしまった日本の魅力を再発見することがある。その一人が、米国人で東洋文化研究者のアレックス・カー氏だ。留学中に訪れた徳島県三好市祖谷の風景に心を打たれ、古民家を購入し居住。「桃源郷のような別世界」という祖谷の魅力を著作などを通じて発信した。

三好市は人口約2万7000人、大歩危峡や祖谷のかずら橋、温泉など山間の観光地を抱え、限界集落もある。しかし、かずら橋には年間約30万人が訪れ、大歩危峡の遊覧船には年間約30万人が利用する。多くのインバウンドも訪れ、15年の民泊者数は約1万5000人と、7年に比べ15倍以上に伸びた。

今、小さな観光地の躍進として注目される同地域の観光のキーマンが「大歩危・祖谷いってみる会」会長で、「和の宿 ホテル祖谷温泉」社長の植田佳宏氏だ。植田氏は「国の将来推計人口によると、市の人口は40年までに半減する。交流人口を増やさなければならない。観光産業をしっかりやっていかないと、まちが消滅する可能性もある」と語り、将来への危機感を踏まえた観光への期待に言及した。

◇観光は過疎対策

続けて植田氏は、地域観光の課題として踏まえるべき五つの課題を挙げた。「誰のための観光なのか」「目標をどこに置くのか」「ターゲットはどこなのか」「何のための観光なのか」「誰がやるのか」―だ。

いち早く名乗りを挙げ認定された「にし阿波〜剣山・吉野川観光圏」も、この流れに沿う。観光圏は広域における官民連携の取り組みだ。植田氏は「A市には宿泊施設があるが、隣のB、C市にはない。だが、B市はラフティング、C市は乗馬ができるという素晴らしい観光資源がある。B、C市は無理に宿泊施設を造らず、A市の施設を借りればよい。広域でお互いの良いところを連携してやっていく」と、そのメリットを説明した。

観光圏には、「観光地域づくりプラットフォーム」が求められる。「そこに情報などを集約し、旅行業者や客にまとめてプロモーションする。これがDMOのスタートラインで、ここが旅行業をつかさどり、地域の旅行商品をつくっていく」

目標について植田氏は「低い山に登るのはやめよう。高い山に登ろうという、あえて高い目標を掲げて官民で取り組んでいる」と言う。それが「日本の顔となる観光地域づくり」だ。

誰のための観光なのか?これに対する答えも明快。それは第一に地域住民のためだ。「『住んでよし、訪れてよしの地域づくり』が目標だ。地域住民が『ここは良い所だからお出でよ』と言わないと駄目だ。観光の目的は過疎対策だ」と断言した。

久保氏は日本版DMOを目指す上での課題として、①多様な関係者を巻き込む②データを把握し、分析する③観光地経営を行う―を挙げた。どれも簡単ではなく、中村氏はこう語った。

「人に関しては知識やノウハウに加え、調整力が求められる。企業の最高経営責任者(CEO)に当たる存在が必要だ。データの把握、分析は最も苦しい部分であり、研修プログラムを活用してほしい。観光地経営には根本的な意識改革が必要だ」

◇必須なツーリスト視点

コーディネーターを務めたジャパンインバウンドソリューションズ社長の中村好明氏が強調したのは、外国人を受け入れる側ではなくツーリスト(旅人)の視点で考えるという、いわば発想の転換だ。「外部の目線を意識して地域の観光コンテンツをマネジメントし、マーケティングしていく組織体がDMOだ」。中村氏は「ツーリスト、客の目線が欠けると、DMOという概念そのものがずれていく」と懸念を示した。

中村氏が提唱するキーワードの一つが、「プレースブランディング」という地域のブランド化だ。「例えば、フランスやスペインではレストランに超一流のシェフを迎え入れることがある。すると、その素晴らしい料理を味わいに世界から富豪たちが訪れる」。家庭料理をそのまま提供するだけでは、客は来ない。ミシュランガイドで三つ星から二つ星に格下げされた店のオーナーが自殺した例もあるほど、ブランドの力は重い。中村氏は「本当に素晴らしいものであれば、世界に発信できる。まだ、日本中で発想の転換が足りない」と力説した。

◇重要な役割分担

行政や地元の観光協会などとの連携はどうか。日本版DMOである「そらの郷」設立に携わった植田氏は「農家民泊を手掛ける組織があり、それをベースに一般社団法人化した。課題になったのはお金だ」と報告した。そらの郷は美馬市、三好市、つるぎ町、東みよし町の2市2町にまたがるDMO。各市町村にお金を拠出してもらい、JR四国からも1人が出向している。ただ、ホテル経営者らでつくる「いってみる会」の人々はボランティアのような立場だ。

中村氏は駅の近くに立地する既存の観光協会の利点にも触れるとともに、「インバウンド観光は民間だけでは無理だ。行政の力がないとできない」と述べ、役割分担の重要性を強調した。

◇カギは2次交通

観光立国実現を目指すために避けられない課題として、2次交通の問題がある。久保氏は「ゴールデンルート以外の地方にも良いものが多くある。そこに行ってもらい、見てもらい、体験してもらおうという時に大事なのは2次交通だ」とし、「2次交通が厳しければ、インバウンドも国内観光も厳しいものがある。2次交通は行政が責任を持って対応しなければならない部分かもしれない」と注文を付けた。

中村氏はスマホを利用して一般人が客を運ぶ配車システム「ウーバー」に着目し、「日本では規制がある。規制を緩和する方向でもっといろいろな社会実験を実施してほしい」と要望。これを受けた形で山口氏は「地域の足は深刻だ。高齢者による事故も増えている。インバウンドが地域に根ざした地域密着型の交通手段を使っていく。観光と地域振興が段々一致するような気がする」と発言した。(了)

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