iJamp自治体実務セミナー レポート

グローバル時代の食を考える 〜今こそ見つめ直したい、我が国ニッポンの豊かな食卓〜

[主催] 時事通信社 [協賛] イオン株式会社
[後援] 農林水産省、厚生労働省、消費者庁、全国知事会、全国市長会、全国町村会

食のグローバル化が進み、「多国籍食卓」があたりまえとなった現代。食の安全・安心に対する正しい情報のあり方と日本の食の豊かさを今一度見なおすため、「グローバル時代の“食”を考える」と題したシンポジウムを開きました。

3時間にわたるシンポジウムの前半は、小泉武夫氏(農学者、東京農業大学名誉教授)によるオープニングスピーチからスタート。続いて、「行政、企業、生活者の取り組み」というテーマで、道野英司氏(農林水産省 消費・安全局 消費者情報官)、森田満樹氏(消費生活コンサルタント)、土谷美津子氏(イオンリテール㈱取締役専務執行役員)に、それぞれの立場からご講演いただきました。

後半のパネルディスカッションでは、堀口逸子氏(長崎大学 広報戦略本部 准教授)をモデレータに迎え、約200名の一般参加者にも質問に答えていただき、さまざまな意見が交わされました。

本レポートでは、東京、名古屋、大阪の3都市で行ったシンポジウムのうち、5月21日(木)に開催した名古屋会場での内容をダイジェストでお届けします。

◆オープニングスピーチ:食を愉しみ、こころ豊かな生活を〜多国籍食卓時代の食文化〜

小泉武夫氏

小泉武夫氏

小泉武夫氏(農学者、東京農大名誉教授)はまず、この50年間で日本人の食生活が高タンパク、高脂肪、高カロリー食に激変したことを指摘しました。一昨年、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されたのは「守っていかなければならないものだから」と説明。「日本の農業事情を考えると、海外からの安全・安心なものを食べていくことは避けて通れない」としながらも、和食の秀でた点について解説しました。

和食が世界の食のなかでもとくに優れている要素としてあげたのは、ご飯、みそ汁、お茶、酒などに欠かせない「水」のすばらしさ、出汁文化に象徴される「うま味」、世界一多い「発酵食品」、旬の概念や“いただきます”の言葉に表れる「心で味わう食」であること、「ヘルシー」なことの5つ。うち、「ヘルシー」の根拠として、和食の主材は「根・茎」「葉」「青果」「山菜・茸」「豆」、「海藻」、「穀物」の7つであり、すべて食物繊維が豊富な食材であると説明。和食では肉や魚、卵はあくまでも副材であり、大豆のタンパク質含有率は牛肉に匹敵するとしました。

小泉武夫氏講演全景

また、和食離れが進み、肉中心の食生活に変わった結果、民族に受け継がれてきた遺伝子が適応できず、消化器系・循環器系の疾患が増えたことなど問題を提起。かつて日本一の長寿を誇りながら、現在では平均寿命がぐっと下がってしまった沖縄の食生活の変化を例に挙げ、その関係を明らかにしました。さらに、ミネラル不足にも一因がある小中高生による犯罪、日本人男性の精子数の激減などの問題についても言及しました。

小泉氏は、食生活の影響は30年後に表れるため、今が大切であることを強調。和食を食べつつ、海外からの文化も取り入れ、安全・安心な食生活をすることの重要性を訴えました。

◆行政、企業、生活者の取り組み①:国の食品安全の管理体制について

道野英司氏

道野英司氏

「行政、企業、生活者の取り組み」と題したプログラムでは、まず道野英司氏(農林水産省 消費・安全局 消費者情報官)が登壇、国の食品の安全管理体制について説明していただきました。

食の安全にかかわるリスクアナリシスの3要素は、食品のリスクを科学的に評価する「リスク評価」、リスク軽減のための政策・措置を検討し、必要に応じて実施する「リスク管理」、食品事業者や消費者がリスクについての情報・意見を交換し、措置や施策に反映する「リスクコミュニケーション」。これらにおける農林水産省、厚生労働省、食品安全委員会、各自治体など組織別の役割分担や管理体制について解説していただきました。

「国の食品安全の管理体制」(道野氏講演資料より)

「国の食品安全の管理体制」(道野氏講演資料より)

また、安全な農畜産物の生産資材(農薬、肥料、飼料、動物医薬品)への取り組みや動植物防疫、高病原性鳥インフルエンザなどの発生予防・まん延防止対策など行政の取り組みを紹介。さらに、輸入食品については、「輸出国対策」「輸入時対策」「国内対策」の3段階の監視体制が取られ、安全が守られていることが報告されました。

安全で衛生的な食品を製造するためのHACCP(ハサップ)や、福島第一原発事故後、急速に不安や関心が高まっている放射性物質にかかわる食品の安全確保対策についても解説。行政による厳重な管理体制が明示されました。

◆行政、企業、生活者の取り組み②:食の安全性について消費者が知っておきたいこと〜輸入食品を中心に〜

森田満樹氏

森田満樹氏

続いて、森田満樹氏(消費生活コンサルタント)が登壇。生活者の目線から、私たちはなにが不安であり、どんなことを知っておくべきか、輸入食品を中心にお話しいただきました。

森田氏は、輸入食品や食品添加物、残留農薬などの不安を抱く消費者が多いなか、実は国や地方自治体、研究者などから適切な情報が発信されていると明言。ところが、それが消費者になかなか届いていないのでは? と問題を提起し、リスクに関する科学的かつ客観的な情報をやり取りする「リスクコミュニケーション」の重要性を語りました。

森田満樹氏全景

また、そもそも野菜や果物にも天然の化学物質が含まれており、100%安全な食品はないと指摘。危害要因である「ハザード」に対し、その量である「リスク(危害の可能性)」という考え方を紹介し、同じものを食べ続けたり、過剰に摂取したりせずにバランスよく食べることが大切だと説明しました。

さらに、食品安全委員会の評価をもとに、輸入食品でも国内の食品でも安全性の基準は同じであることを強調。食の安心は受け取る側が感じる心理的・主観的なものであり、まずは安全がどのように確保されているのか科学的根拠を知ることが大事だとし、輸入食品に関する行政などのチェック体制を紹介しました。

「不安を煽るようなマスコミ情報はいろいろありますが、食べ物情報に食い物にされないことが大事です」と力説されました。

◆行政、企業、生活者の取り組み③:すべてのお客さまへ豊かで安心な食卓を

土谷美津子氏

土谷美津子氏

企業の取り組みを紹介したのは、土谷美津子氏(イオンリテール㈱取締役専務執行役員 食品商品企画本部長)。食卓を彩る食材が多様化するなか、「安全・安心、かつより豊かに」を掲げる同社の輸入食品について語っていただきました。

事例として、遺伝子組み換え飼料や抗生物質・成長ホルモンをいっさい使わずに直営牧場で肥育する「タスマニアビーフ」、海を汚さないことにまで配慮した「生アトランティックサーモン」、クリスマスのシーズンの新定番「アメリカンロブスター」などを紹介。また、アレルゲンや異物に関する捉え方など、国ごとに異なる安全・安心の水準をすべて日本の基準で管理していることなどが報告されました。

「イオンの海外製品の検査体制」(土谷氏講演資料より)

「イオンの海外製品の検査体制」(土谷氏講演資料より)

お客さまからもっとも問い合わせが多い中国産食品についても、国際規格であるグローバルギャップに基づき、種、土壌、生産管理状況などを確認し、労働者の人権や労働状況までを審査するというシビアな管理の実態が伝えられました。

土谷氏は「加えて出荷段階、輸出段階、輸入段階で二重三重の農薬検査、微生物検査を実施して、これらを通過した商品だけが店頭に並んでいます。中国だから危ないということではなく、管理の問題。厳重な管理をして、安心しておいしく召し上がっていただける商品のみをお届けしています」と述べました。

【パネルディスカッション】

後半は、堀口逸子氏(長崎大学 広報戦略本部 准教授)をモデレータに、前半登壇した4氏をパネラーとするパネルディスカッションを進めました。ご来場いただいた方々には、提示された質問について青色(イエス)と赤色(ノー)のカードを上げ、パネラーと一緒に考えていただきました。

◆豊かな食文化を楽しむために、食卓を見つめなおす

堀口逸子氏

堀口逸子氏

ご来場の方々とパネラーには、産地や遺伝子組み換えの表示や衛生にまつわる4つの質問が出され、活発な意見交換が行われました。

「あなたは居酒屋の経営者です。ライバル居酒屋は最近、原産地表示を始めて好評らしい。自分のお店で使っているのは安い外国産の材料ばかり。表示をすればかえって客足は遠のくかもしれない。それでも原産地表示をする?」

この質問では会場の意見が割れ、その理由も「なぜ安いのかをオープンにした上で表示をした方がいい」、「相手が原産地表示を売り文句にしているなら、同じ原産地表示で勝負する必要はない。義務表示でなければ、他の特徴を出してお客さんを呼べばいいのでは」などさまざま。パネラーの意見も分かれ、「情報は必要かと思う。そこに、安全・安心だということも併記して安心して食べてもらうのがいいと思う(小泉氏)」、「外食での原産地表示については、農林水産省の方ではお願いしているところ。でも、経営者の立場ならば、表示しないのもビジネスとしてはありかなというふうに思いました(道野氏)」など白熱したディスカッションが行われました。

また、「あなたは醤油メーカーの社長です。使用する大豆は分別生産流通管理が行われたものになっています。分析したら、遺伝子組み換え大豆が4%混入していることがわかりました。遺伝子組み換え大豆使用と表示した方が正直な気もしますが」という質問。

パネルディスカッションの模様

パネルディスカッションの模様

会場からは「お客さまに対しての信用があるので、嘘はいけない」「こういうことは、どこから話が漏れるかわからない。リスクを考えたらあらかじめ表示した方がよい」などの声が聞かれたほか、森田氏からは遺伝子組み換えに関する表示の複雑さと課題が指摘されました。

盛んなディスカッションに、小泉氏は「みなさんが真剣に自分や家族の口に入るものを考えておられるということが切実にわかりました。赤を上げた人も青を上げた人もきちんと理解されていて、両方とも根本的には間違っていないと思います。本人がどう考えるかということが、大切なんじゃないかと思います」との感想が語られました。


最後に各パネラーから、豊かな食生活を楽しむための食育の重要性があらためて訴えられ、また「和食と輸入食品」の関係についての意見が述べられました。

「海外産の食材を使って和食をつくるときにも、お話ししたようにきちんと管理されていれば、バランスよくということでいいと思いますよ」と森田氏。土谷氏は「日本の食文化にきちんと適応した安全・安心な海外の原材料でつくっている和食が増えてきているのは事実。一方で、従来の日本の材料で洋食を楽しんでいる人も増えています。また、海外で評価された日本の食文化がブーメランのように戻ってきて、日本で再評価されているという動きもあります。グローバル化すればするほど、日本のよさ、日本のおいしさを見つめていくことになるのではないかと思います」と話されました。


来場者から登壇者への質問の場面では、「こういった場では情報を得るということが一番大切だと思う」と語る小泉氏に詳細な情報をご提供していただくなど、シンポジウムは積極的な情報・意見交換の場となりました。

※iJAMP会員のみ閲覧可能