イベント概要ABOUT

主催
株式会社時事通信社
協賛
株式会社みちのりホールディングス
協力
東京大学公共政策大学院、一般財団法人運輸総合研究所
後援
内閣府、全国知事会、全国市長会、全国町村会
日時
2019年10月4日(金)13時~
会場
時事通信ホール / 東京都中央区銀座5-15-8

 2019年10月4日、東京・東銀座の時事通信ホールにて「地域交通のイノベーション~ MaaS 構築のために~」(主催:時事通信社/協力:東京大学公共政策大学院、一般財団法人運輸総合研究所/協賛:株式会社みちのりホールディングス/後援:国土交通省)が開催された。セミナーでは、人口減少や高齢化が進展するとともに、コンパクトシティ等都市構造の変容と広域連携の必要性が増す中、地域交通について地方自治体や民間事業者等地域の主体による持続可能で利便性の高い交通ネットワークの維持・確保のため、さまざまな取り組みを紹介。その一方、交通事業の経営の連携や多目的化のほか、自動運転、MaaS、AI 等の新たなモビリティの動きやインバウンドへの対応等地域交通をめぐる状況が大きく動いている点について、地域交通の専門家が地域における交通ネットワークの維持・確保に向けた戦略について議論を交わした。 (文責・セミナー事務局)


開会挨拶:一般財団法人運輸総合研究所会長/東京大学公共政策大学院客員教授 宿利 正史 氏

基調講演1「地域公共交通におけるイノベーション」


 国土交通省公共交通・物流政策審議官 瓦林 康人 氏

 地域公共交通が直面している課題として、適切な対策により困難を乗り越えるべき変化と、積極的な活用により新たな展開につなげるべき二つの変化が存在する。前者は、人口減少の本格化、超高齢化社会の到来、労働者不足の恒常化など、後者は、第4次産業革命による技術革新の本格展開、訪日外国人旅行の拡大・定着、地球環境の深刻化などがあげられる。

 地域公共交通を取り巻く現状・背景として、わが国の人口は、2010年をピークに減少を続けており、今後も減少を続けることが予測されている。さらに、高齢者の免許非保有者、免許返納の数は、近年急激に増加している。そのため、高齢者を中心に、公共交通がなくなると生活できなくなるのではないか、という声が大きい。しかし、地方では、路線バス事業の全国約7割が赤字という厳しい現状があるだけでなく、運転手不足の深刻化という問題を抱えている。

 路線バスの撤退が相次ぐ地方においては、自治体の公的負担によるコミュニティバス、乗合タクシー、さらに自家用有償旅客運送等により、地域の移動手段を確保する必要がある。市町村における地域公共交通の現状は、自治体が主体となって足の確保を担っているが、専任担当者が不在の市町村は約8割で、これも人手不足が課題である。

 現在、国で運営している公共交通の維持、改善のための制度として地域公共交通活性化再生法という法律が中心になっている。地域では、地域公共交通網形成計画を作り目標などを決めていく。そして、こういった現在の公共交通を取り巻く厳しい状況を踏まえて、今後の改善策を作らなくてはいけないということで、この春にかけて地域交通フォローアップ・イノベーション検討会を開催した。

 近年では、技術革新が本格展開しているので、これを交通の問題につなげていきたい。また、地球環境問題も公共交通利用へとつなげていきたい。そして、あらゆる地域で、あらゆる人々が、自らの運転だけでなく、ニーズに対応した移動サービスを享受できる社会の実現を図っていく。さらには、MaaS(Mobility as a Service/複数の交通手段を組み合わせた移動サービス)の日本導入、実現に向けて地域におけるプロジェクトの推進、法的位置付けを明確化していきたい。

基調講演2「MaaSが変える地域の姿 ~地域課題の解決に資するみちのりグループの取り組み~」

 株式会社みちのりホールディングス代表取締役グループCEO 松本 順 氏

 まず、地域課題の解決に向けたみちのりグループの取り組みについて説明したい。

 近年の社会情勢の変化は、バス需要を増加させ、バス供給を減少させている。需要の増加は、高齢化と免許返納、若者の車離れ、そして、訪日外国人の増加などがあげられる。供給の減少は、生産年齢人口のさらなる減少、バス運転手の不足がボトルネックとなっている。そのため、需要の増加に対し、供給の制約により対応できないというジレンマに直面している。

 生産性をどう上げていくか。自動運転の導入が一つである。その中で早期に実現可能なものとして、バス専用道(BRT)やラストワンマイルなどがあげられる。その他にも複数の交通手段をデジタル技術を通じて利用する側から見て一元化するMaaSがあげられる。そして、MaaSをこれから構成していくであろう移動手段の中で最近、最も注目されているのが、テクノロジー活用による、定期バス路線の効率性と乗合タクシーの利便性の双方を実現する輸送形態、AIオンデマンドバスだ。自由ルート化することでバス停数の増加が可能になる。さらには、利便性向上により、利用者数上昇が期待される。オンデマンドバス(ダイナミックルーティング)を実現するシステム要素としては、ユーザーアプリ、アルゴリズム、ドライバーインターフェースなどがある。IT系ベンチャー企業を中心に、多数の事業者が存在する。アルゴリズムの優劣に基づく競争が今後生じる見込みだ。

 最後にみちのりグループがこれまで取り組んできたことを紹介する。
 路線バスへの混乗、観光客と市民の混乗、さらに物流業界と協力をしての貨客混載などだ。環境対策としては、国立公園の環境保全・誘客力向上のため、公園内シャトルバス3台をEVバスに置き換える電気バスの導入などがある。そして、これはみちのりグループだけではないが、データをオープン化することによって、リアルタイムでバスがどこにいるか分かるようにし、ユーザ利便性の向上につなげる。

 このように、これまでのバス事業に捉われない革新的な事業を広く行っている。そして、これからも公共インフラの一翼を担う一員としての役割を果たし、地域交通の維持発展のためにさまざまな貢献をしていきたい。

特別講演「広島市の地域公共交通再編に向けた取組」

 広島市長 松井 一實 氏

 広島のまちづくりの三つの変革期のうち、現在、第三の変革期である成熟期にあたる。持続的な発展に向けた基礎づくり、「まち」の枠組みの深化などにより、周辺24市町の連携により圏域内人口200万人超の維持を目指すことにより、圏域全体の持続的な発展を目指す。そのために、50年、100年先を見据えたチャレンジを行っていきたい。そして、持続的な発展を目指す上で重要なものが公共交通ネットワークであるのでこれらの整備を徹底していきたい。

 公共交通体系づくりの基本計画として、利用者にとって分かりやすく使いやすい持続可能な公共交通体系の構築があげられる。そうした中で計画を具体化するために、地域公共交通再編実施計画を策定している。これを行っていくための課題として、都心部における課題はバスが過密状態となっており、定時性・速達性が確保されないことがある。郊外部における課題としては、利用者の減少による便数の減少などがある。そのため、利用者にとっての利便性、そして事業者にとっての効率性。これを両立させることを目指した取り組み。分かりやすく使いやすい、持続可能な公共交通ネットワークの形成を目指している。

 先にも述べたが、200万人広島広域都市圏。これは、これからの成熟社会の中にあっていろいろな意味でのシュリンクという概念をどう突破するかといった時に、共に同じような問題を抱えた基礎自治体が一緒になって効率的な経営を目指そうという発想の基での考え方である。これを実現させるためにも広島広域都市圏の資産ともなる、いわゆる公共交通体系を市の中だけでなく、この地域全般で展開していくということをやっていきたい。

 本市としては、その実現に向けて行政と事業者が一体となって、枠組み作りに取り組んでいるところなので、こういった考え方に国の方からの支援をお願いしたいと思っている。本市は、平和を象徴する都市として全国に先駆けてMaaSの実現を目指していきたい。

講演「自治体・地域との協働による持続的な交通ネットワークの構築」

 福島交通株式会社 代表取締役社長 武藤 泰典 氏

 まず地方の現状として、バス路線だけでは薄く広範囲に広がった居住人口に対して、面的な交通ネットワークを維持していくことは、現時点において非常に難しくなっている。こういった環境の中、どのようにして地域の面的交通ネットワークを持続的に維持していくのか。限られた輸送資源をいかに効率的に活用し、地域の面的交通ネットワークを持続的に維持していくかが課題となっている。

 その一つの鍵となるものが、「自治体」「事業者」「利用者・地域」が三位一体となっていかに協力関係を築き、協働できるかということである。しかし、この3者は現在大きな問題を抱えている。事業者は、深刻な乗務員不足。自治体は、今ある公共交通ネットワークを維持していくためには、多額な財源がかかるので、その財源不足。利用者・地域は、公共交通というものに対しての関心不足という課題を抱えている。

 このような課題認識の中での福島交通の取り組みにとして、ODデータの収集と見える化、利用の実態の把握を行う。供給サイドの取り組みとして、①網形成計画策定②利用環境の改善③ラストマイル対応④環境・エネルギー対応がある。需要サイドへの働き掛けとしては、①多様な移動ニーズを吸収②高齢者の利用促進③知ってもらう活動④分かりやすさの追求⑤クロスセクター効果の測定などだ。これらを自治体・地域との協働で行っていく。

 そのために、利用実態の把握、利用環境の改善、また環境・エネルギー対応に力を入れていく。そして、多様な移動ニーズを吸収し、さらには新たな需要を生み出す。

 MaaSは確かに起爆剤となり得るが、本当の意味で地域交通のイノベーションを起こし得るのは、この3者がしっかりと協力関係を築き、課題を認識し、地道な取り組みを重ねてきた地域ではないかと考えている。そのため、三位一体となってこれからも協働していきたい。

パネルディスカッション

●コーディネーター

  •  福島大学 経済経営学類 准教授 吉田 樹 氏
●パネラー
  •  ボストンコンサルティンググループシニアパートナー&マネージング・ディレクター 秋池 玲子 氏
  •  国土交通省 総合政策局 交通政策課長 蔵持 京治 氏
  •  八戸市 都市整備部 次長兼都市政策課長 畠山 智 氏
  •  茨城交通株式会社 代表取締役社長 任田 正史 氏

 講演に続き、「地域交通のイノベーション~MaaS構築のために~」をテーマにパネルディスカッションが行われ、コーディネーターの福島大学准教授・吉田氏を中心にパネラーのボストンコンサルティンググループ・秋池氏、国土交通省・蔵持氏、茨城交通・任田氏、八戸市・畠山氏が自己紹介と共にそれぞれの意見を交わした。

吉田(福島大学准教授):新たなモビリティサービスとMaaSについてだが。このような新しいツールを生かして、私たちが抱えている地域のさまざまな交通の諸問題、あるいは、交通事業の生産性の向上というところにどう結び付けていくのか。そして、利用者本位というところで考え、コンペティションの意味での競争ではなく、共に創る方の共創というところに移っていく必要がある。これらの仕組みをどう作っていくかということを議論したい。

秋池(ボストンコンサルティンググループ):日本で初となるバス再生事業に参加し成功を収めたが、バスの在りようの変化に伴い、事業者と自治体との連携をどのように実現していくか。また、そのためには、第三者の目線が重要になってくる。そして、技術が実現するまでにはまだ少し時間があるが、すでに起こり始めている。これをどうやって実現していくのかというところに今後、工夫が求められている。

蔵持(国土交通省):地方バスの競争政策の問題点について、次期通常国会で特例法の提出を予定している。それから、日本版MaaSへの新たなモビリティサービスの実現に向け、現在、地域におけるプロジェクトの推進中である。利用者に対して使いやすいものを作っていくことで新しいサービスができていくと考え、日々施策に取り組んでいる。

畠山(八戸市):競合から共生に向け、バス事業者との連携、また運賃政策など、今後も段階的に再編事業を拡大し、より利便性の高い公共交通ネットワークを圏域全体で形成していく。

任田(茨城交通):デマンド型交通の提供などの新たなテクノロジーへの取り組みや、路線バスの利用促進など、幅広く展開していく。最終的に社会実走を目標としている中で初期コストがかなりかかる。そこのハードルを下げることが大きな課題だ。

 それぞれの意見を伺った後、吉田氏を中心として、MaaSという新たなテクノロジーによって地域課題をどう解決していくのか、また、交通事業の生産性をどう高めていくことができるのかという観点で活発なディスカッションが行われた。最後に吉田氏より、「これらの観点を少しでもヒントにして、それぞれの持ち場でのご活躍を願っている」という発言でパネルディスカッションが閉じられた。