検診率向上実践例

健診受診率向上:行動変容に大切なたったひとつのこと

株式会社キャンサースキャン代表取締役社⻑

福吉 潤 氏
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 健康診断(健診)を受ける人をどのように増やすか。人がどうやったら行動変容をするのか研究してきた。その成果の話をしたい。健診受診率を上げられるかを考えた始めたのが12年前。そのころ、国主導の普及啓発、ピンクリボン・キャンペーンが行われていた。

◆ 普及啓発で受診率上がらず

 国も普及啓発をすれば、受診率が上がる、知ることと行動が相関するだろうと思っていた。実際に啓発活動により2~3年でマンモグラフィーが有効という認識が広がった。70%の人が認知したことは素晴らしかったが、受診率はほとんど変わらなかった。

 知ることと行動がダイレクトにつながらないこともあると分かった。普及啓発が無意味ではないが、啓発だけでは十分ではない。

 何をやれば、受診行動が増えるのか。その研究をスタートした。世界の先行研究をまとめたものによると、効果の証拠が不十分な施策も結構あった。

 乳がん、子宮がん、大腸がんについて、マスメディアを使った普及啓発は、受診率の向上には証拠不十分。効果が高いのは、手紙によるコール・リコール(勧奨・再勧奨)だった。

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◆ 「たまたま受けていない」

 イギリスの乳がん検診受診率は非常に高いが、コール・リコール・センターが「あなたは何月何日の何時の枠で健診を受けることになっている」とリマインドを全員にかかける。面白いのは「年度末までいつ来てもいい」ではなく、「あなたは何日の枠です。ダメなら連絡をください」と可能期間を絞る。これが重要。

 普及啓発で受診率が上がらない日本でもコール・リーコールの重要性のエビデンスを出そうと考えた。がん検診を受けない理由の内閣府の世論調査(平成21年)をみると、断トツの一位は「たまたま受けていない」だった。これは理由にもなっていないが、人の本心はこういうものだ。

 「がん検診は受けた方がいい」ことは知っているが、「積極的に受けなくてはいけない理由がみつからない」「今は忙しい」と思っているうちに年度末になり、「4月以降でいいか」となる。これの繰り返しが起きている。

◆ 背中をちょっと押す

 強い拒否の理由があるわけではない。受けなくてはならない理由がないだけだから、ちょっと背中を押す、コール・リコールがあるだけで、受ける人が増えるんじゃないか。

 受診率が100%になるという話ではない。骨粗しょう症健診の場合、受診率は5%ぐらい。10%になるだけで、骨折予防にいたる患者の数は数万人、数十万人単位のインパクトがある。

 そのためにはちょっとした後押しがあるだけでいいのではないか。

 さまざまな研究によると、役所から案内が届くと「そろそろ検診の締め切りか」となり、よいきっかけなることがわかっている。「たまたま受けていないだけ人」にコール・リコールすると、受診率が5ポイント、10ポイント上がる。

◆ 文字満載の健診ガイド

 しかし、これで問題がすべて解決したわけではない。コール・リコールで受診率が上がらない自治体がある。

 どういうことか。その自治体にコール・リコールを見せてもらうと、年に1回、文字満載の健診ガイドを送って周知していた。しかし、文字満載のガイドが受けやすい環境を作っているのか。

 分かりやすい、受診を受けたいと思うメッセージにすることで受診行動を起こすのが可能だとの仮設に基づいて、メッセージを何パターンか作ってみた。

 受けがよいかったのは「区役所から1万円の補助がでるので、1000円で受けられる」。これは価格の心理学。自己負担1000円としただけでは「安かろう、悪かろう」と思われてしまう。

 検証のため、東京都杉並区で5年間未受診の人5000人を抽出して、古いチラシを1500人に、新しいチラシを1489人に送った。古いチラシでは1人しか受けなかったが、新しいチラシを見た人は131人が受診。メッセージによって、受け止め方、動機付け、受けたいという気持ちの醸成、きっかけとしての効果も変わる。

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◆ 情報を整理して分かりやすく

 他の胃がん検診の事例では、情報が同じでも整理してわかりやすくするだけで、年度は違うが、受診率が7.7%から19.1%に上がった。

 行動変容とビッグデータについて。受診履歴データや、問診結果などを人工知能(AI)を活用して分析し、受診確率を一人一人算出して、受診確率が100%に近い層、80%の層、50%くらいの人、ほとんど来る確率がないの4パターンに分類し、勧奨メッセージを変えて送ることも行われている。

 受診率を上げる手法はコール・リコール。厚労省の予算は今、普及啓発にはつかない。コールリコールにしかつかない。メッセージの内容、自治体のビッグデータ活用も重要だ。

 本当に大切なのは、何か。当たり前だが、検診を受けるだけで人が健康になるわけではない。

 がん検診は精検の受診率が低い。大腸がんは女性のがん死亡の第一位。女性は乳がん、子宮がんで亡くなるわけではない。大腸がん。しかし、大腸がんの精検率は75%しかない。国際的には、「精検率75%なら、検診をやめたら」と言われるくらいだ。

◆ 目的を見据えたフォロー

 ある県の肝炎の検査では、要精検になったひとが精検にいっている割合はたった15%。かつ精検で陽性になった人の中で専門医にかかっている割合は非常に低い。

 要するに、目的を見据えた適切なフォローがあって初めて、検診の意味が出てくる。

 受診率の向上が最終目的ではないと考えた時、骨粗しょう症検診で何が重要か。受診率向上の先を見据えたフォローアップが重要だ。

 高齢者が転倒して骨折するのは、仕方がないというのが一般的な理解ではないか。しかし、転倒して入院・介護に至るのではなく、転倒予防ができる。これが重要。仮に転倒しても骨折しないような予防的治療。予防的治療をする前の検診という一気通貫したものがあって意味がある。

◆ 費用対効果は抜群

 介護費の予防効果(骨折、入院、介護に伴う費用)は一人1500万円くらいという話がある。そうならば、予防的治療や検診の費用を上回り、費用対効果は抜群じゃないか、と思う。

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 人工透析を予防すると年間500万円の医療費を節約できるというデータが出てきて世の中が動き始めた。

 骨粗しょう症を予防することによる、介護費の予防効果が分かりやすい形で出てくることが重要。目的は早期発見による予防なんだということを再度、肝に銘じた上で、予防的治療や検診が投資だというエビデンスが出てくれば、国の政策も大きく進んでいくのではないか。