国の方針・取組

健康寿命をのばす自治体の保健事業

厚生労働省 医薬・生活衛生局長

樽見 英樹 氏
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◆ 高齢者の健康維持を

 東京で開催されたセミナーで基調講演した厚生労働省医薬・生活衛生局長(前保険局長)の樽見英樹氏は「65歳以上の人口は2040年、45年にほぼ4割に達する。年金を受給する人口が4割という、今の感覚とは違う世の中になる」と語った。  その上で、「高齢者になると、健康面で個人差が大きくなるため、さまざまな状態に対応していかなければならない。高齢者の健康をどう維持していくかが日本社会にとっての大きな課題だ」と続けた。

◆ 悪化抑える取り組みに遅れ

 樽見氏は75歳以上が対象となる後期高齢者の医療保健事業について「事業費の96・4%が健診や人間ドックに使われている。『病気を見つけよう』というのが中心であり、『悪くなるのを抑えよう』という取り組みはあまり進んでいないのが現状だ」と指摘した。

 高齢者の保健事業は病気の予防、治療に力点が置かれ、介護保険制度は高齢者の身体機能低下を補うことを目的としてきた。「いわば、その間に落ちていたのが、状態の悪化を抑える取り組みだ」(樽見氏)という。

◆ フレイル予防が鍵に

 「フレイル」という概念は2014年、日本老年医学会によって提唱された。日本語では「虚弱」と言い、健康から身体機能障害へと至る途中の状態を指す。高齢者の健康上の特性は、高血圧や心疾患、脳血管疾患、糖尿病などの慢性疾患と、「老年症候群」といわれる認知機能障害やめまい、摂食・嚥下障害、視力障害などの症状が相互に影響している点にある。健康な状態からフレイル、そこから身体機能障害へと進む。要介護の前段階と位置付けられるフレイルを予防できるかどうかが鍵になる。
「健康寿命には大きな地域間格差がある。それぞれの風土や当該自治体の取り組みが関係していると考えられる。この格差を少しでも減らすためにも、フレイルの予防が大切だ」

◆ データベースを活用

 政府は有識者会議の検討などを基に関係法律を改正し、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施を目指している。後期高齢者の保健事業は都道府県の単位で行われ、介護保険と国民健康保険に関する事業は市町村が所管する。樽見氏は「都道府県の広域連合が市町村に委託し、市町村が一体的に事業を実施する。市町村は広域連合が持っている被保険者の医療情報などのデータの提供を求めることができる」と、現在のスキームを説明した。
 「国保データベース(KDB)システムを活用することで、この地域はこういう病気の人が多いとか、こんなサービスを利用している人が多いとかいったことなどを分析できる。また、他の自治体とデータを比べたり、個人に関して年ごとの変化を比較したりすることも可能だ」

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◆ インセンティブにも配慮

 住民の「通いの場」もポイントになる。樽見氏は「体操をしたり、いろいろな作業をしたり、勉強したりする。熱心な自治体は介護予防のためにそんな取り組みをしており、健康相談を行っているところもある」とし、「かかりつけ医やかかりつけ薬局とも連携する。さらに、医療の専門職にも入ってもらうことで、疾病やフレイルの予防を目指す」と話した。
 後期高齢者医療制度の中で、インセンティブが働く仕組みも設けた。その一つが特別調整交付金だ。「良い取り組みをしている自治体には、より多くのお金がいくと考えてほしい」
 樽見氏は「それぞれの地域で高齢者が元気に過ごせる。この当たり前のことが実現できないと、社会は大変なことになる。つくった制度をどう実行していくか。自治体関係者と話し合いながら、成果を出していかなければならない」と力を込めた。

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