◇多彩な移住者たち
一般社団法人上山集楽・認定NPO法人英田上山棚田団理事の水柿大地氏は、東京都から岡山県美作市の上山地区に移住した。東京の大学に在籍していた頃は、授業に出席するため2年間に100回も上山と東京を往復。「机上での勉強と農村の現場での体験を両立できた」と言う。「気が付けば、9年間、どっぷりと地域に漬かっている」
上山には以前、8300枚(約100ヘクタール)の棚田が存在したといわれる。現在は2000枚ほどだ。農家と移住者たちで約20ヘクタールの棚田を維持している。人口は約150人だが、この10年間に約40人が移住してきた。「何とか横ばいで地域を維持している」。移住者の顔触れを見ると、建築家や医師、薬剤師、介護士、IT企業や証券会社らの出身者などと多彩だ。
棚田は農作業の効率が悪い。移住者は共同で4ヘクタールほどの田を管理し、コメや保管のきくニンニクを栽培している。彼らにとって農業は副業だが、「この地域に何か良い影響を与えたいと考えている」と言う。
水柿氏は草刈りをしたり、畑をおこしたりするなど一人暮らしの高齢者の生活支援のために「みんなの孫プロジェクト」も立ち上げた。作業のついでに高齢者とお茶や食事を一緒にして、話し相手になる。「ちょっと電球を取り換えてほしい」「お風呂の設定温度を2度下げてくれないか」。こうした頼みに応じるのは無料で、水柿氏は「家の困り事を解決していく中で交流が深まる」と話した。