主 催(株)時事通信社、イシン(株)

協 賛ドコモ・システムズ(株)、(株)ソリトンシステムズ、(株)デリバリーコンサルティング

日 程2018年8月31日(金)13:00-17:15

会 場時事通信ホール(東京都中央区銀座5-15-8)

 

 時事通信社と株式会社イシンは8月31日、東京・銀座の時事通信ホールで、「これからの働き方改革~先進事例から学ぶ取り組みと課題」と題する自治体実務セミナーを開催した。6月29日に働き方改革関連法が成立したことを受け、自治体の先進事例や民間から解決策の提案も得ながら自治体関係者と今後の方向性を考える場となった。同セミナーでは加藤勝信厚生労働大臣がオープニングスピーチで「働き方改革が地域社会をより活性化していくことになる」などと強調。自治体関係者や専門家から問題点の指摘や具体的な提案があった。(文責・編集部)

厚生労働大臣 加藤 勝信 氏

◎労働生産性上げる余地ある

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 世界経済における日本の国内総生産(GDP)のシェアは、1997年当時16%ぐらいあったが、今日では5、6%になっている。そこで、安倍政権はアベノミクスを展開してきた。端的に現れたのは株価の上伸で、企業等々の収益などにも大きく影響した。個人でも、株式保有者はもとより、非保有者にも年金などの運用を通じた効果が及んだ。とりわけ雇用情勢は劇的に変わった。
 最大の課題は少子高齢化と人口減少だ。人口は2008年をピークに減少し始め、今世紀末には6000万人になるかもしれない。人口構成には二つの山がある。一つが第1次団塊世代で、次は1972年前後の世代。本当は98年ぐらいに第3次ベビーブームが来て180万人ぐらい生まれると想定していたが、120万人しか生まれず、これが今の少子化につながっている。団塊の世代は今65歳を超えつつあり、2025年に75歳を超えていく。ジュニア世代が65歳を超えるのが40年で、75歳を超えるのが50年。社会保障制度を考える時には25年と40年を潮の変わり目として見ている。
 その中で問題なのは、いわゆる生産年齢人口がさらに減少していくことだ。そこで、われわれは「ニッポン一億総活躍プラン」ということで、全ての人に持てる力を発揮してもらうための環境づくりとして、保育園の整備や介護サービスの充実、それらの場で働く方の処遇を改善していく。そのために、経済が好転した成果を活用していく。

◇働き方改革で地域活性化

 もう一つは働き方改革。過労死を減らすとか、非正規と正規の処遇の改善を進める以外にさまざまな働く選択肢を提供することで、その状況に応じて働く選択肢を増やしていくのがポイントだ。生産年齢人口(15歳から64歳)はこの5年間で436万人減っている。しかし、就業者数は約400万人増えた。女性が283万人、高齢者が240万人ぐらい増えている。「まだ働きたい」「環境さえ整えば」という高齢者や女性がいるわけだから、そういった方々の希望を実現できる社会を作っていく。
 いろんな働き手が増えていけば、さまざまなイノベーションも起きるとの思いで働き方改革を進めている。大きな柱は、同一労働同一賃金、長時間労働の是正、高度プロフェッショナルやテレワーク、兼業副業だ。もう一つは、外国人材の受け入れに向けても新たな制度を作っていくということで取り組んでいる。
 こうしたことを進める背景の一つに生産性の問題がある。その国のGDPを、その国で働いた人全部の時間で割った1時間当たりの国際比較をみると、日本は43、アメリカは68、ドイツは日本の1.5倍だし、イタリア、イギリスですら2、3割高い。しかし、逆に言えばこれだけの引き上げ余地があるのだから、これを改善することで日本の経済規模は600兆円となり、それを超えていくことは不可能ではない。
 労働生産性を上げていけば、個人の所得も増えて消費も増え、投資や経済も増えるし、地域社会をより活性化していくことになる。これらについてのご理解と積極的な取り組みをお願いし、本セミナーをさらに大きな原動力としていただけたらありがたい。

内閣官房「まち・ひと・しごと創生本部」内閣参事官 尾田 進 氏

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◎自治体挙げて取り組みを

 働き方改革は地域にとっても非常に重要だ。地方創生が必要になっている背景には急激な少子化がある。全体の人口が減る中で、高齢者比率は2065年には38%に達する。このため生産年齢人口は減り、少ない人数で社会を支えていかなければいけなくなる。もう一つは東京への人口集中。地方では過去15年間で若者の人口は約30%減り、出生数も20%ほど減って、これが地域経済に大きな影響を与えている。一方、東京圏の出生率は突出して低く、初婚年齢や出産年齢は高くなっており、子どもの数が少なくなる悪循環が生じている。
 こうした背景の下、14年に「まち・ひと・しごと創生本部」が立ち上がり、人口減少に歯止めをかけ、東京への過度な人口集中を是正することなどを目標に取り組んでいる。東京23区内の大学定員の抑制を向こう10年間の措置として定めたほか、地方自治体と大学が連携して、地元企業を学生に知ってもらうための取り組みなどを支援している。
 特に中小企業支援の観点から取り組むことが重要で、働き方改革に熱心な企業を表彰・認証してもらうことなども提案している。こうした取り組みは、兵庫県で先駆的に行われており、労働組合、経営者団体、自治体の3者が連携する事業を数年前から実施している。市町村レベルでは、北海道の砂川市で若者の人材育成に熱心な企業と高校生や大学生、働く若者を集めたグループワークなどを通じて、地元への就職意識を高めてもらう取り組みをしている。

◇健康経営は待ったなし

 従業員の健康管理を経営的視点から戦略的に実践し、大事にする健康経営という発想は社会全体としても重要。企業にとっても待ったなしの取り組みかと思う。横浜市では、健康経営に取り組む企業を認証して応援し、大学と連携して効果検証を行っている。もう一つ重要なのは介護離職の問題。介護離職者の6割が本当は仕事を続けたかったと言っている。そういった介護離職を防ぐために、やはり働き方改革が重要となる。
 同一労働同一賃金、罰則付きの時間外労働の上限規制の導入をメインとする働き方改革法が成立した。労働時間については来年4月1日からの適用となる。中小企業はその1年後、同一労働同一賃金については2年後の4月から適用される。企業はこれを契機に、仕事の進め方、従業員の働き方を見直していくチャンスだと思う。自治体も中小企業支援に注力してほしい。
 働き方改革こそが労働生産性を改善するための最良の手段であり、中間層が厚みを増し、消費を押し上げ、より多くの方が心豊かな家庭を持てるようになれば日本の出生率は改善していく。このため、自治体挙げて働き方改革に取り組んでいただきたい。

三菱総合研究所 政策・経済研究センター長(働き方改革実現会議構成員)
武田 洋子 氏

◎AIなど活用して市場創出

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 なぜ働き方改革が必要かということだが、やはり少子高齢化が進む中で、生産年齢人口といわれる働き手、社会の支え手が減っていくことがある。働き手の対象を65歳までに限定してしまうと生産年齢人口はぐっと減ってくるので、健康寿命の延びに合わせて、例えば75歳まで働くようにしていければ本人のため、社会のため、社会保障のためにもなると考えている。
 しかし、シニアさえ働けば支え手は少なくとも減らないのかというと、そうではない。より長期で見ると、やはり減っていく。また、人生100年時代が到来するといわれる中で、それに備えたマルチステージを前提とした働き方などにしていかなければならない。
 人工知能(AI)やロボットなどに代表される技術革新がものすごいスピードで進展しているが、それをうまく活用して、より良い暮らしと新たな市場を創出し、雇用とリンクさせて考えていく必要がある。ちょっときつい仕事はロボットがやってくれるかもしれない。これらが実現できれば生産性は上昇し、日本経済の成長とわれわれの豊かさ、暮らしやすさ、便利さなどが両立していくのではないかと考えている。

◇学び直しにインセンティブを

 2020年代後半まで人手不足は続くので、女性やシニアの労働参加は間違いなく重要なのだが、一方で専門技術者や技術革新をリードしていく人材は、30年になるとますます足りなくなるので、ミスマッチは拡大していく。これをどう解決していくのかについても今から考えていかなければいけない。
 海外では、働きながら夕方の授業を取って修士号を取る方がものすごく多い。そういった学び直し、リカレント教育も進めていく必要がある。ただ、スキルを身につけ、学び直してほしいと言っても、インセンティブがなければやる気は出ないかもしれない。これをいかに実現していくかも鍵になるのではないか。
 高齢化し、支え手が減り、人生100年時代が到来し、技術革新がわれわれのタスクを大きく変える。しかし、それを縮み志向で捉えるのではなく、チャンスと捉え、前向きな発想で考えることが大事。それを実現していくために学び直しや、技術革新によってマッチングを実現する取り組みを進めれば、個人が質の高い人生を送れるようになるし、社会保障制度や財政の持続性、成長が実現し、日本が高齢化社会のソリューションを世界に示せるのではないかと信じている。

株式会社ソリトンシステムズ パブリックビジネス部部長 富本 正幸 氏

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◎テレワークで生産性向上

 自治体における働き方改革だが、長時間労働の是正や職員の生産性向上に取り組む手段としてテレワークがある。そのパターンには、サテライトオフィスと在宅勤務型、出張時や災害支援時に必要となるリモートワークなどがある。当社はセキュリティーメーカーなので、セキュリティーの観点から話を進める。
 通信環境の安全性だが、インターネット以外の接続方法である閉じたネットワークを使うことと、接続しに来る人は許可された人かどうか。また、情報漏えいは大丈夫かという問題に、労務管理の問題がつきまとう。まず、庁内ネットワークと出先機関があって、その延長上にリモート接続環境が出てくるが、リモート接続の端末は閉域ネットワークを使い、インターネットから直接アクセスできない。端末が許可されたものかどうかは、デジタル証明書でアクセスを制御する。職員証のようなものがパソコンに入っていないとネットワークにアクセスできないようにする。
 リモート接続端末には業務情報は一切残さないという手法がある。情報を残さない手法を当社は二つ持っている。リモートコントロールという遠隔地の端末を手元の端末で操作する形のものと、セキュアブラウザー方式といわれる、安全なブラウザーを使って経路制御ができる製品だ。いずれもそのソフトを閉じると端末に情報は一切残らない。労務管理の部分だが、システム的に時間管理、ルール設定することが可能になる製品がある。

◇セキュリティーと利便性

 大分県庁は早くからこの取り組みを始めているが、コミュニケーションツールの導入により、職員同士のコミュニケーションの活性化や情報の効率化が図れたという。リモートワーク端末の選定要件としては、端末に業務データが残らないこと、運用のしやすさから国産製品であることといった要件を満たすものとして弊社製品が採用された。
 災害支援時にヘルパーとして職員を派遣する際、派遣先でもリモートワークして対応できるようにデジタル証明書を使って変なものからアクセスできないようにしているところもある。このパターンは出張時におけるリモートワークにも当てはまると思う。
 テレワークのポイントはセキュリティーと利便性。強固な認証、端末に一切情報を残さない、操作が簡単ということから職員の利用が増え、生産性が向上する。コミュニケーションの形はどんどん拡大しようが、例えばプライベート空間が相手に見られてしまうとか、電話中に家族の声やペットの鳴き声が入ったりすることへの抵抗感はあるだろうから、セキュリティーで隠すとかもできるのではないかと考えている。

三菱総合研究所 参与 佐渡友 裕之 氏

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◎ロボットで業務自動化

 業務の自動化と訳され、パソコン上で作業を自動化するように設定されているRPA(ロボットによる業務自動化)については、昨年初めごろから日本でもよく聞かれるようになった。最初にニュースになったのが現在の三菱UFJ銀行で、RPAの導入によって事務処理時間が年間で8千時間削減できたという。
 自治体では、つくば市がRPAの実証実験を行っており、対象業務で約8割の時間削減効果が出そうだという中間報告があった。市役所の業務には単純で定型的な作業ではあるものの量は多く、労働時間が長くなるものがある。特に確定申告時期には時間外労働が増えるため、RPAを活用することで作業時間の短縮・効率化と、正確で的確な処理の効果を研究したという。
 このように、業務の中には季節波動性があって、臨時職員を雇わなければいけないようなものも多いが、こうした業務にRPAはフィットする。
 これまでも日本では、業務平準化とか人件費削減などでコスト削減に努めてきたが、それらによる削減効果は15%から最大30%と言われる。これに対してRPAを入れると45%から75%まで削減できるとの説もある。現時点では、RPAが自動化できるのは定型業務だけだが、来年とか再来年といった近い将来には、AIがRPAに組み込まれて、非定型作業や判断が必要な作業も自動化できるようになると思っている。

◇短期、低コストで導入可能

 RPAはパソコン上で行うどのような作業も自動化できるし、そのスピードは人間の数倍から200倍ぐらい速く、24時間365日働けて、ミスはしないし文句も言わない。さらに、従来のシステム開発と比べてはるかに短い期間、低コストで導入が可能になる。おまけに、システム開発というと専門家による仕事と考えられがちだが、RPAは人事部とか経理部、総務部、税務課などのユーザー部門でプログラミング・システムの知見のない方が自らの作業を自動化していける。
 その人たちがやっていた定型的な反復作業はロボットに任せて、自分は窓口業務とか市民サービスに関わる、より高付加価値な業務にシフトすることができるようになる。RPAは長時間労働の是正に資するし、業務品質と労働生産性の向上に役立つソリューションだ。
 自治体は現在、いずれも実証実験中だが、京都府が昨年7月から始めて、大阪府、和歌山県、つくば市、愛知県一宮市等々がある。自治体におけるRPA導入のポイントだが、ロボットは業者に出さず内製化し、導入をリードするメンバーはシステム知識よりも業務知識がある人を選ぶべきだ。現場の担当者が改革の主役だ。

横浜市 経済局 ライフイノベーション推進課 担当課長 森田 伸一 氏

◎中小企業の健康経営を推進

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 横浜市は経済局と健康福祉局の2局が共同して、市内の中小企業の健康経営、働き方改革を普及・推進している。目的は、経済局が産業振興と経済活性化で、健康福祉局は働く世代も含めた住民の健康増進ということになる。目的は多少異なるが、やっていることは一緒だ。
 企業を取り巻く社会状況だが、人口が減る中で高齢者比率は高くなり、労働人口は減っていき、中小企業は人材不足で悩んでいる。また、過重労働など労働問題や雇用問題にしっかり対応しないと経営が成り立たなくなる可能性もある。こうした中で、経営者に注目されているのが働き方改革、とりわけ健康経営だ。
 働き方改革と言っても、選択肢が広くて理解し難い部分もあるが、健康経営と言えば、従業員の健康を増進する取り組みが収益性を高めると考えて実践するようになる。健康経営で従業員のやる気がアップする。元気で働く社員の方が生産性が向上するので、企業としてもいい成績が残せる。さらに、健康経営をPRすれば企業のイメージアップも期待でき、取引先も安心したりして経営力全体が向上する。

◇三つのクラスで認証

 今年になってからは、健康経営が加速度的に広まってきており、横浜市がPRしなくても金融機関などが自発的に顧客などを集めて健康経営セミナーをやれるようになった。
 経済局と健康福祉局は共同で、健康経営の効果を数字でアピールするための効果測定を昨年から始めた。中小企業の従業員160人ぐらいに協力してもらい調査している。このうち、健康経営をやっている企業は、アンケート項目のうち労働生産性損失の項目が良くなっていくという仮説の下にやっている。また、健康経営を普及促進するためにクラスAAAなど三つのクラスで認証している。
 認証を受けると、認証マークを企業のホームページや名刺に貼ることができるようになるし、保健師、栄養士、産業カウンセラーの無料派遣が受けられるなどのメリットがある。これを始めた一昨年は28事業所を認証。去年は57事業所で、今年はさらに増えると期待している。
 また、横浜市の中に横浜健康経営支援拠点、新横浜ウエルネスセンターを去年設け、月に1回、健康経営や健康に関する情報を提供するセミナーを開催。ストレッチ体操とかヨガ教室のような従業員向けのイベントも行っている。さらに横浜市の中小企業の方々に健康経営を普及、促進するために、横浜市健康経営ハンドブックを発行した。

大阪府柏原市 政策推進部 企画調整課 参事兼課長補佐 山本 直樹 氏

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◎公共施設でママスクエア

 地方創生推進交付金を活用した公民連携による「子育て世代の働き方改革」という名前の事業を紹介したい。簡単に言えば、国の交付金と民間企業の力を借りて、子育て中のお母さんを応援し元気にする取り組みだ。
 柏原市はいわゆる消滅可能性都市の一つということで、これを深刻に受け止め、国に先駆けて保育所、幼稚園などに通う5歳児の保育料の無償化を9月から実施することにした。
 人口減少への対応策としては、子育て世代への支援と、生産年齢人口の流出抑制、地域の資源を活用した地域活性化の視点に立って取り組むことにしている。2060年には人口5万4381人という目標を掲げている。その目標達成に向けて、取り組むべき施策や事業を位置づけたものが、柏原市まち・ひと・しごと創生総合戦略だ。
 これを実現するために、まちの創生、ひとの創生、しごとの創生を三つの柱として立てている。それに際して行ったアンケートでは、働きたくても働けない母親が存在していることが分かり、子育てママをターゲットにした就労環境の整備が必要と考えた。
 定住に関するアンケートでは、年齢層が高いほど住み続けたいと思っているが、若い方ほどそうではない状況が見られる。このため、住み続けたいと思える施策に取り組み、若い世代をつなぎとめるような世代間交流が重要と考えている。

◇新たなテレワークオフィス

 子育て中の母親の労働拠点を構築した近隣自治体の事例を参考に、地方創生加速化交付金を活用し、子育て世代の働き方改革を実現するママスクエア事業を公共施設などで実施することにした。ママスクエアは保育園でも在宅でもない、新しいテレワークオフィスで、ママが子どものそばで働ける。子育てママの働きたいという思いを実現する仕組みで、ワーキングスペース、キッズスペース、コミュニティースペースで構成された、約40坪の施設だ。
 子どもを連れて出勤したお母さんが働く間、子どもは専任のキッズサポートスタッフとガラス窓越しに設置されているキッズスペースで過ごす。この事業はいわゆる保育事業ではないので、食事やトイレといった子どもの世話をキッズサポートスタッフは行わない。子どもの母親はそこで働いているので、何かあればすぐに対応できるというわけだ。
 ワーキングスペースで行う仕事はテレワークがメイン。今年3月初めに母親労働拠点創出事業としてママスクエア柏原をオープンした。ママスクエアは現在、首都圏を中心に20あるが、公共施設というのは柏原市だけで、一つのモデルになると思っている。
 柏原市は今年60周年ということで、子育て世代だけでなく、あらゆる世代が住み続けたいと思えるまちづくりに取り組んでいきたいと考えている。

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時事通信社 編集委員 武部 隆 氏

◎自治体の働き方改革は進んでいない

 働き方改革の必要性だが、ある牛丼チェーン店が大量に店を閉めたことがあった。深夜業務を1店舗1人の従業員にさせる、いわゆるワンオペが過酷で、従業員が次々に辞めてしまい、結果として店を閉めなければならなくなった。
 人口減少がさらに進むと、こうした問題は必ず起きてくる。そのために、高齢者にもっと働いてもらわなければならないということになるが、高齢者人口の2割に働いてもらうとしても、人数としてはたかだか700万人。これらの全員が働いたとしても、それを足したところで今の生産労働人口の66%にしかならない。
 この66%で、今と同じだけの富を稼ぎ出さなければならないと考えた場合、単位時間当たりの労働効率を1.5倍にしないと追いつかない。高齢者が増えて、社会保障や医療、年金、介護といったものに使うお金が増えてくる以上、一定の富を稼ぎ出す必要がある。
 静岡市は「働き方改革は福利厚生にあらず」と言っている。企業経営者の意識改革であり、企業の存続をかけた経営戦略ということだ。企業を指導する部署の方が、働き方改革についてアプローチする際には、総務とか労務といった福利厚生部門ではなくて、経営者か経営戦略を練る部門にアプローチしなければならない。

◇行政サービスのコスト感覚

 地方自治体の働き方改革は、はっきり言って進んでいない。企業は働き方改革を進めないとつぶれるかもしれないという危機感があるが、自治体は別に進めなくてもと、たかをくくっているとしたらそれは違う。企業とは違う独特の労使関係やコスト意識の欠如が存在する。
 民間企業では、経営者がこうしなければいけないと打ち出した場合、組合も抵抗はするが、あるところでは妥協せざるを得ない。だが、地方自治体の組合はそうではない。行政サービスにはコスト感覚というものがないから、非効率な労働状況がずっと続いている。どうしたらいいのかだが、今やっている仕事のどこが非効率かということを個々人が見直していかなければいけないが、これが一番難しい。
 働き方改革に抵抗するのは、やっぱり人間だ。誰も仕事のやり方は変えたくない。そこをどう変えていくかだが、働き方改革のパーツを入れていく中で、「やってもいいよ」という部署の方を優先して進めていくことだ。つまり、業務の中身ではなくて人の問題だから。まず抵抗の少ないところから入れていって、そこで成功させて、それを一つのモデルとして他の部署に進めていく。
 地方自治体は住民の生活を支えている。これを維持していくためには働き方改革をしなければならない。職員一人ひとりが、自分は今何をしなければならないかを考えて、組合も含めて、職場単位で考えていくことが必要だ。