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主 催内閣府

協 力時事通信社 コーポレートディレクション

日 程2018年2月23日(金)13:30-16:35

会 場時事通信ホール(東京都中央区銀座5-15-8)

「スマート社会」の実現目指す

東京オリ・パラ契機に、内閣府カンファレンス
 政府は世界に先駆けたスマート社会「Society 5.0」の実現を目指し、先端科学技術の研究・開発に取り組んでいる。実現の起点となる2020年の東京オリンピック・パラリンピックを2年後に控え、その最前線を紹介する「科学技術・イノベーション カンファレンス」(内閣府主催)が2月下旬、東京・銀座の時事通信ホールで開かれた。訪日外国人客への多言語対応や便利度がアップする新交通システム、気象情報の多角的活用など、20年に向けた取り組みが関心を集めた。

目標は20年、内閣府が司令塔

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 冒頭あいさつした内閣府大臣政務官の山下雄平氏は「少子・高齢化が進む中で、経済を成長させていく。この課題を両立させるためには、科学技術・イノベーションが鍵だ。内閣府が司令塔になり、基礎研究から社会実装まで一貫して取り組む」と発言。1964年の東京五輪が残した新幹線や首都高速道路など、現在の日本を形作った「遺産」を踏まえ、「目標は20年。技術の革新は経済成長に資するだけでなく、性別や年齢、障害の壁を乗り越え、都市と地方の壁も乗り越えてくれる」と語った。

大きな変革、社会の隅々に

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 来賓としてあいさつした経団連未来産業・技術委員会委員長の小野寺正氏は「IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータなどの技術発展によって大きな変革が起きている。これを社会の隅々に適用して最適化を図り、さまざまな制約から解放するのがSociety 5.0だ」と話した。  小野寺氏はAIやロボット技術の活用によって「生産性の向上や新たな治療法、薬の開発などにつながり、環境と経済が調和する持続可能な社会を築くことができる」と述べるとともに、「イノベーションを創出し続けるためには、好事例を一つでも多く生むことが重要だ」と強調した。

経済、社会的課題解決を両立

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 基調講演には3人が登壇。内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)常勤議員の久間和生氏は「日本学術会議会長を除く常勤、非常勤の議員7人のうち、安倍政権になり、産業界出身者が3人に増えた。科学技術をイノベーションにつなげ、産業界、社会の役に立てようという意思の表れだ。安心・安全な国民生活を実現し、持続可能な社会を構築したい」と抱負を語った。
 第5期科学技術基本計画(16~20年)で打ち出したSociety 5.0は「産業界が中心となってこのコンセプトを作った。サイバー空間とフィジカル(現実)空間を結び付け、経済発展と社会的課題の解決を両立させる」と述べた。
 CSTIは産官学が連携し、各界のトップクラスがプロジェクトディレクターを務め、11の課題に取り組んでいる。その中の一つ、自動走行システムについて久間氏は「全自動車メーカーが参画してプロジェクトを進めている。競争領域と協調領域をうまく切り分け、協調領域のところで自動走行の地図のデータベースを作っている」と紹介。また、次世代農林水産業創造技術に関しても「無人トラクターやスマート田植え機などが続々と商品化されつつある」と成果を示した上で、「20年のオリ・パラを契機に11の課題を実現、あるいはその一部を実現する」と結んだ。

介護ロボットに挑戦―北九州市

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 北九州市はかつて公害という試練を乗り越え、青空ときれいな海を回復した。そうした歴史を踏まえ北橋健治市長は「人口減少や高齢化、低炭素社会への移行などの課題解決に向けた『課題先進都市』を目指す。ピンチをチャンスに変えるのだという前向きな気持ちで取り組んでいる」と強調した。
 取り組みの事例として、介護支援ロボットを活用した先進的介護の実証や資源のリサイクル(北九州エコタウン事業)、日本最大規模の洋上風力発電などを紹介。特に介護ロボットに関し「介護作業のどこがきついか、どこに時間がかかるかを細かく見ていき有力なデータを提供し、メーカー側にフィードバックしたい」と述べた。
 同市はカンボジアに水道の専門家を派遣し、漏水率を先進国並みの7~8%まで引き下げた。その実績を基に海外水ビジネスを展開中で、北橋市長は「それぞれの自治体にはプロフェッショナルがいる。国と一体となり、技術を海外に発信していけば信頼が高まり、ビジネス展開につながる」と指摘した。

大事な視点の多様性

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 働く女性の声を反映したサイトを運営するイー・ウーマン社長の佐々木かをり氏は「技術者は自分の技術をどんどん掘り下げていくと、自分の世界に入ってしまう。誰がその技術を使うのか考えない」と疑問を呈した上で、「イノベーションはどうやって起こすのか。何のために起こすのか。誰が起こすのか。誰が使うのか」と問い掛けた。
 佐々木氏は「一番重要なことは視点のダイバーシティー(多様性)だ」と強調。例えば自治体である課題が浮上したとき、「関係者すべてが同じ考えで解決策をつくっていけば、いろいろな見方をする市民への回答にはならない」と指摘。「ITの時代からAIの時代になった。たくさんの価値観があり、世界中からウオッチされている中でさまざまな人に支えられた自治体、会社、技術の方がより良いに決まっている」と力説した。
 「『Society 5.0』は人間の愛にあふれた社会をつくることだ。技術を使う人も作る人もダイバーシティーを蓄え、力を合わせて愛にあふれた社会をつくっていきたい」と力を込めた。

AIでスマートなおもてなし

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 プレゼンテーションで、グローバルコミュニケーション開発推進協議会会員の藤野真人氏は「スマートホスピタリティ」について説明した。「ホスピタリティ、つまりおもてなしは、人間同士が心を砕いてやるのが一番良い。人間がベストだが、人間には24時間連続して動けなかったり、よく忘れてしまったりする弱さがある。AIなどが補うことによりベターの選択ができる」
 藤野氏の会社では業務用のスマートスピーカーを開発・販売している。例えば、ホテルの窓口や部屋に置く。窓口では、特定の方向の音だけを収録することができるので、隣の窓口の声に影響されない。また、小規模な会議の議事録を取ることなどにも活用できるという。
 コメンテーターを務めた元陸上競技選手の為末大氏は「ハイコンテキストである日常会話と方言にどの程度対応できているのか」と質問した。藤野氏は「方言への対応は程度があるが、関西弁なら問題はない。日常会話はテキストが豊か。完全に人間の代替ができる幅広いコンテキストは難しいが、役立つ場合がある」と説明した。
 20年の東京オリ・パラには多くの訪日客が訪れ、非常時の対応が重要になる。そこで活躍が期待されるのが、多言語音声対応だ。藤野氏は「救急の場面で、外国人へのサービスができる。消防隊が活用し、多言語で一時的な対応ができるようになっている」と述べた。

すべての人に便利な交通

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 車の自動走行の研究・開発に取り組んでいる東京大生産技術研究所教授の大口敬氏は、次世代都市交通システムについて説明した。目標は「すべての人に優しく使いやすい移動手段によって、高齢者も障害を持つ人も自由に出歩ける都市を創る。かつ、一部を20年の東京オリ・パラで実現する」ことだ。
 同システムのイメージはこうだ。自動運転バスがスムーズな加減速によりバス停にピタッと停止する。車いすの人でもすぐに乗り込むことができ、乗った後は速やかに車いすが固定される。料金については、現金を支払ったり、ICカードをかざしたりしなくても課金できる技術を導入。バスは赤信号で止まらないよう、通信で青信号を延長する。乗り継ぎも良くする―。
 大口氏はバス停に正しく着ける技術やバス以外の乗り物との情報統合などの課題を挙げた上で「地方ではバスがどんどん減っている。採算が取れないのでまた減るという負のスパイラルに陥っている。しかし、自動運転による魅力的なサービスを入れることで地方部や都市郊外は活性化できる」と話した。
 現役時代に遠征先の欧州で進んだ交通システムに触れた為末氏は「実証実験の場所はどこが適しているのか」と尋ねると、大口氏は「離島であれば閉鎖空間なので、できるのではないか」と答えた。

五輪から日常生活まで

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 最近、ゲリラ豪雨が日本各地に被害をもたらしている。このゲリラ豪雨や竜巻の事前予測の最前線にいる東京大地震研究所教授の堀宗朗氏は「五輪などのイベント運営から日常生活まで最新の気象技術を活用できる」と語った。
 昨年、埼玉大に設置されたような最先端の気象レーダーによって、20~30分先の豪雨や強風の高精度での予測が可能だ。堀氏はオリ・パラを見据え「この予測は競技の開始や中断、再開を判断する際や万一の時の観客の避難誘導に使える。選手にも情報を伝えればウオーミングアップもしやすくなる」と、その可能性を示した。
 為末氏は「これからのオリ・パラは若者の好むスポーツを取り込むため、屋外の競技が増加していくだろう。サーフィンやヨットなどは気象条件が大きく影響する。各チームは直前の気象情報を基に戦術を決めることになる」とコメントした。
 予測はイベントだけではなく、日常生活でも有用だ。主婦が外出するときに強風との予測を知れば、自転車で行くのか、バスに乗るのか選択できる。また、自宅周辺で強い雨が降るという予測により、洗濯物を取り込むために出先から早めに帰宅することもできるだろう。会社員も「最寄りの駅は豪雨になる」との予測を基に、降車駅や移動ルートを変更したりすることが容易になる。
 堀氏は「自治体の防災業務にもうまく使えるのではないか」とした上で、大型公園内を流れる河川の水位上昇を20分前に検知し来園者に注意喚起した結果、実際に水位が急上昇しても被害はなかったという実例を紹介した。

プラネタリウムをシアターに

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 体操の跳馬の選手が前方から走ってきて頭上を越え、後方に通過していく―。和歌山大教授の尾久土正己氏は新・臨場体験映像システムによる映像のデモンストレーションで会場を沸かせた。
 同システムはドームシアターで、上も横も後ろも見ることができる、臨場感あふれる映像を提供する。尾久土氏は全国に300以上あるプラネタリウムに着目、「全国で年間850万人が来館するが、上位4館で2割、上位10館で3割を占める。それ以外は運営が苦しく、閉館する所が増えている」とした上で、「プラネタリムを多目的なドームシアターにしてはどうか」と提案した。
 ドイツで人気があるプラネタリウムでは天文関係の上演は半分以下、あとはロックコンサートなどいろいろなものを映写している。一方、従来の天文関係だけのプラネタリウムはあまり人気がないという。
 尾久土氏は「映像で日本中の桜の見頃をリレーし、ドーム内でお花見をする時代が来るのではないか。観光でもドームシアターを拠点として大まかな情報を得てから、現地に行くという使い方もできる」と指摘。和歌山大が協力し、長野県飯田市が祭りのドーム映像を流したところ、祭りが行われていない日にもかかわらず、「あの神社に行ってみたい」という観光客が増えた実例を紹介した。
 20年オリ・パラに向けては「一つの通過点。全国のプラネタリウムが高速ネットワークで結ばれ、超臨場感の映像でつながれば日本中が元気になる」と、ドームシアターの普及に期待を示した。

社会実装が重要

パネラーのみなさん

※写真はクリックで拡大

 カンファレンスを締めくくるに当たり、為末氏は「一つひとつの技術が素晴らしい。ただ、スポーツ界には『教科書を読んだだけで、泳げるようにはならない』という言葉がある。社会実装が重要だ。オリ・パラという機会をうまく利用し、次の世代がより良い方向に向かって行けるようにしてほしい」と述べた。

展示ブースの模様

  • 展示ブース①

    時事通信ホール内に設置した展示ブースを見学するカンファレンス参加者 (写真はクリックで拡大)

  • 展示ブース②

    担当者から説明をうける山下内閣府大臣政務官 (写真はクリックで拡大)